コラム

ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン

2017年05月23日(火)11時34分

同社は4月18日、プライムナウのサービスを拡充すると発表している。プライムナウの配送網を活用して、三越日本橋本店、マツモトキヨシなどの商品も即時配達する。ドラッグストアや百貨店と提携したことで、化粧品やデパ地下の総菜、和菓子や寿司なども配達してもらうことが可能となった。一部の商品を除き2時間枠での配送となり、540円の配送料がかかる(ドラッグストアは5000円以上、百貨店は9000円以上の購入で無料)。

アマゾンは基本的に小売店なので、これまでは自社の商品か自社に出店するショップの商品だけを扱ってきた。しかし、今回の取り組みは、百貨店やドラッグストアなど、大手小売店の商品をアマゾンが配送するという形になる。そうなってくるとアマゾンの仕事は限りなく運送会社に近くなる。

もしアマゾンがこうした提携をさらに拡充するということになると、アマゾンと運送会社は発注者と受注者という関係ではなく、場合によってはライバルという状況に変貌する可能性も出てくるわけだ。

【参考記事】アマゾンが開始、ヤギのレンタル・サービス

ネット通販による自社配送網強化につながる可能性も

続いて同社は、有料会員向けに、野菜や果物、鮮魚など生鮮食料品を配送する「アマゾンフレッシュ」を開始すると発表した。
 
アマゾンフレッシュは、10万点近くの食料品や日用品を最短4時間で自宅に届けるというサービスで、アマゾンが用意した物流センターの冷蔵・冷凍倉庫からプライムナウの配送拠点を経由して直接顧客に配送される。まずは東京都の港区や千代田区など6区でスタートし、順次対象地域を拡大する予定だ。

このサービスを利用するためには、有料会員の年会費(3900円)に加え、フレッシュ利用料として月500円を支払う必要がある。1回ごとに500円の配送料金がかかることを考えると、決して割安なサービスとはいえない(6000円以上購入した場合には配送料は無料)。

だが、世帯によっては買い物の時間を節約したいという強いニーズがあり、こうした顧客は追加料金を払ってでも利用する可能性が高い。しかも月額の固定費が発生するので、一度、取り込んだ顧客は満足度が低下しない限りは、サービスを継続してくれる。うまくいけば、アマゾンはロイヤリティの高い顧客層をうまく囲い込むことができるようになる。

ヤマトがアマゾンに対して2割の値上げを行った場合、アマゾンは最大で数百億円の追加負担が必要となるが、こうしたコストをヤマトに対して支払うのであれば、そのコストを自社の配送網拡充に費やすという判断を下しても不思議ではないだろう。
 
自社配送網を使った通販サービスは量販店のヨドバシカメラやディスカウント・ショップのドン・キホーテなどもスタートさせている。ヤマトの値上げは、もしかすると、ネット通販企業による自社配送網拡充のきっかけとなるかもしれない。

【参考記事】アマゾンがコンビニ進出! Amazon Goは小売店の概念を180度変える

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ベトナムに中国技術からのデカップリング要求=関

ビジネス

再送日産、ルノー株5%売却資金は商品開発投資に充当

ワールド

バングラ総選挙、来年2月に前倒しの可能性 ユヌス首

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story