コラム

ローソン不振の原因は経営者か親会社か

2017年05月09日(火)11時40分

三菱商事出身の竹増貞信社長 Toru Hanai-REUTERS

<突然の退任会見からおよそ一カ月。今月末に玉塚会長が去った後でこそ、その仕事に真の評価が下される>

ローソンの玉塚元一会長が今月30日の株主総会をもって退任する。ユニクロを展開するファーストリテイリング社長などを経て同社トップに就任した玉塚氏は、いわゆるスター経営者の一人といってよいだろう。突然の退任に至った背景には、親会社である三菱商事との路線の違いがあるとも言われているが、ローソンにおける玉塚氏の業績はどう評価すべきなのだろうか。

コンビニの業績は本体の数字だけを見ても分からない

玉塚氏は4月12日、2017年2月期の決算発表を前に、同社会長からの退任を明らかにした。突然の発表に市場は驚いたが、業界をよく知る関係者の間では、玉塚氏の退任は時間の問題とされていた。その理由は、同社の大株主である三菱商事が、社長秘書をしていた竹増貞信氏をローソン副社長として送り込み、2016年9月には公開買い付け(TOB)実施を発表して、ローソンを子会社化したからである。

一連の人事と資本政策を見れば、竹増氏がローソンの副社長に就任した時点で、玉塚氏の退任も既定路線になったと考えるのが自然である。では、そうだと仮定して、三菱商事は玉塚氏のどこに不満があったのだろうか。

10年にわたってローソンを率いてきた新浪剛史氏の後継者として玉塚氏が社長に就任したのは2014年5月のことである。玉塚氏はトップに就任すると、高級スーパーである成城石井を買収するとともに、地域コンビニであるスリーエフやポプラと資本提携するなど、コンビニ首位であるセブン-イレブンを追撃する方策を矢継ぎ早に打ち出した。

ただ業績面では、直近の2017年2月期こそ増収増益を実現したものの、社長就任翌年から2年連続で減益になるなど、利益成長は不十分であった。

もっともローソンのようなコンビニ企業の場合、本体の数字だけを見ても経営の実態を把握することはできない。その理由は、コンビニはフランチャイズ(FC)制を採用しており、各店の業績と本体の業績が一致しないからである。

ローソンは2017年2月末時点で全国に1万2395店を展開しているが、このうちローソン本体が運営している直営店は200店舗ほどしかなく、残りはすべて独自のオーナーが存在するフランチャイズ加盟店である。ローソンの売上高のほとんどは加盟店からのロイヤリティで占められているため、ローソン本体が儲かっていても、店舗が儲かっているとは限らないのだ。

【参考記事】ローソンの子会社化は、三菱商事の自己救済策だ

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story