コラム

ロシアの傭兵団を率いるプリゴジンは哀しい道化師

2022年12月22日(木)14時00分

ロシア軍の糧食調達を請け負って地位を築いた「プーチンの料理長」プリゴジン Mikhail Svetlov/GETTY IMAGES

<どういうコネでかプーチンの目に留まりワーグナー・グループを立ち上げたが、いずれは排除される可能性もある脇役でしかない>

ウクライナ戦争が泥沼化するなかで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の交代をめぐる議論がかまびすしい。その中で傭兵団「ワーグナー・グループ」を率いるエフゲニー・プリゴジンの名が、汚れたあぶくのように浮かんできた。

現在61歳。かつて窃盗と未成年売春斡旋で9年の刑を食らったとされる男。どういうコネでか、ロシア軍の糧食調達を請け負って地位を築き、プーチンの目に留まり(2000年の日本の森喜朗首相〔当時〕とプーチンの会食のケータリングでだったらしい)、今度は「兵士のケータリング」すなわち傭兵団を立ち上げた。

傭兵と言えば、近代国家成立以前の近世西欧を思い浮かべるのだが、実は現代ではアメリカが老舗だ。ロシアで傭兵は国防省に嫌われたのだが、プーチンの後ろ盾でシリアに進出。18年5月、ロシア軍には黙って油田制圧に乗り出し、米軍にほぼ全滅させられる憂き目に遭っている。

その後しばし鳴りを潜めたプリゴジンだが、ロシア外務省のお墨付きでアフリカに乗り出す。コンゴ民主共和国などアフリカ諸国の政府に呼ばれて内戦にも介入し、その陰で鉱物資源の利権獲得を狙った。

しかし自分で大統領になろうと思っても無理だろう。17世紀、三十年戦争の英雄だったボヘミアの傭兵隊長アルブレヒト・ワレンシュタインも、自分の足元で徴税を始めたとたん雇い主の皇帝に暗殺されている。プリゴジンも野心家の私兵として暗躍し、その功績で農業大臣にでもしてもらうのがせいぜいだろう。

彼は南部クラスノダールで青年たちを訓練しているといわれる。いつの日か、ここがテロ根拠地として正規軍に掃討される時も来るだろう。プリゴジンは主役というより脇役、むしろ哀しい道化に近い存在だ。

2022122720230103issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2022年12月27日/2023年1月3日号(12月20日発売)は「ISSUES 2023」特集。中国、民主主義、インフレ、米中関係......ウクライナ戦争が変えた世界の進路。PLUS 注目すべき次の10人。――2023年の世界を読む新年合併号です

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story