コラム

参院選後に岸田政権を待つガバナンスなき世界

2022年06月29日(水)10時45分

参院選後の岸田政権はしばらく大型選挙に悩まずに済むが…… ISSEI KATOーREUTERS

<値上げラッシュで反自民の火が付きかねないが、主要国の政府は既に統治困難な状況にある>

参議院選挙まで2週間弱。これを何とか乗り切れば大型選挙がない至福の時期が3年も続く。それまでは我慢の一手というわけで、岸田内閣は発足以来、定見がないという批判をも気にせず波風を立てないことを第一にやってきた。

それが奏功して参院選は自民党が勝利し、自公で多数議席を維持できるというのがこれまでの見通しだ。ところが火の付いたような値上げラッシュが始まったところで、反自民にも火が付きかねない。

改選定数が1つしかない「1人区」は全国で32あり、ここではその時の機運が結果を大きく変える。実際、2007年の参院選ではそれが故に自民党は改選議席64中37しか獲得することができず過半数議席を失い、第1次安倍政権は退陣。衆参両院の間で「ねじれ」が生じて政権が毎年代わるようになった。ガバナンスの喪失だ。

大変だ。戦争がすっかり身近になった今の危ない世界で日本は他の諸国に伍していけないではないか、と思って世界を見渡すと、主要国はほぼ例外なくガバナンスを失っている。

6月19日の総選挙でフランスの与党は過半数を大幅に下回り、マクロン大統領はこれから5年、大きく手足を縛られる。ドイツではショルツ首相をトップに政権を取ったばかりの社会民主党が州議会選挙で大敗を繰り返し、アメリカの圧力でロシアの天然ガス輸入を削減する一方で石炭発電への依存を復活させるという、自傷行為を強いられている。

そのアメリカではインフレが止まらず、中間選挙で民主党が上下両院の多数議席を失うのはほぼ確実。加えてインフレ退治のための急速な利上げが金融バブルを崩壊させて、リーマン危機のような不況を起こすかもしれない。その混乱の中でトランプが大統領に復活し、アメリカを専制国家にしてしまうかもしれない。

自由、民主主義という近代文明の基本理念は維持不可能。経済が伸びないなかで、何千万もの人間が織りなす利害の相克をうまく仕切ることも、ほぼ不可能。それができないのなら近代国家の維持も不可能、ということになる。やはり「近代の終焉」がメガトレンドなのか? 

近代に代わるポスト・モダンの時代には「国家」は後景に退いて「個人」が主要な役割を果たすというバラ色の予測もあったが、民族、諸組織、諸人種が相争う無法の時代になるのか?

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story