コラム

「逆切れ」ロシアによる交渉中断も、北方領土問題は焦らず騒がず

2022年04月05日(火)16時37分

その逆風にもかかわらず安倍政権は北方領土問題解決に過度の望みを懸け、「日本は北方領土問題を解決せずとも、経済関係を進める」といういたずらな望みをロシア側に与える。それを決定的に破ったのが、今回の制裁措置だった。これで日ロ関係は当面、冷戦時代のモードに戻る。

しかし騒ぐことはない。極東でのロシアは、ソ連時代ほどの軍事力を持たない。ロシア太平洋艦隊は海上自衛隊の10分の1ほどの陣容でしかない。

領土問題に時効はない。騒ぎ立てるとロシアも騒いで逆効果なので、静かに要求を続けていけば十分だ。

そして、「ロシアと仲良くするためには領土要求という失礼なことはやめる」という日本的な発想はしないことだ。領土を譲ってもロシアから大したものは得られない。日本との関係はロシアにとっても必要なので、ロシアは必ず寄ってくる。

一方、日ロ間ではソ連時代からの先人の努力で多くのものが築かれている。サハリンの天然ガスと石油開発、ロシアに日本企業が造った工場や店舗。これらは今回放棄されていない。

そして日ロ両国で働き、学ぶ何人もの「いいロシア人」「スパイではない日本人」たちだ。こうした資産は大事にしていかなければならない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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