コラム

朝鮮半島外交で「蚊帳の外」でも、日本とロシアに秘策あり

2018年05月29日(火)16時45分

南北首脳会談を歓迎して統一旗を振る韓国国民(4月) Kim Hongji-REUTERS

<核ミサイル付き経済大国の誕生と米軍撤退――米朝の「ディール」に備えるために必要な抑止力とは>

トランプ米大統領は本当に世界をひっくり返す人だ。大衆的な「こんなもの、こうすりゃいいじゃねえか」程度でTPP(環太平洋経済連携協定)やイラン核合意を離脱。6月12日に予定される米朝首脳会談(編注:開催は未確定)でも、東アジアの政治地図をがさがさとかき混ぜてしまいかねない。

衰えたとはいえ、アメリカから「おまえが悪さをすれば貿易決済でドルを使えないようにしてやる」と言われれば、どの国も泣く泣くついていくしかない。

その点でTPPをめぐる日本の外交はよかった。カナダなどの抵抗を抑えて、11カ国で「包括的かつ先進的TPP協定」の署名を実現。これからの対米外交で使える武器になる。日中韓首脳会議も無事実現できた。

心配なのは、朝鮮半島をめぐる動きから日本が外れている感があることだ。拉致問題の解決や日本に届く中距離核ミサイルの撤廃を求めるのはいい。一方、これからの対朝鮮半島戦略や安全保障政策を打ち出さないで、米韓の両大統領にただ泣きついている感じがするのは情けない。

「拉致問題が解決しなければ何も進められない」というのでは、「島を返してくれない限り何も進められない」という、北方領土問題についてのかつての自縄自縛と変わらないではないか。

中国マネーにかすむ日本

一方では北朝鮮と中国にロシアが少々、もう一方では米韓に少々日本、双方が基本的には対立しながらも安定が崩れるのを防いでいる――米朝首脳会談後もこの構造が続くならば、大した被害はない。

だが、もしも米朝首脳会談で朝鮮戦争終結宣言が行われ、最終的に平和条約締結につながっていくのなら、極東の国際政治構造は変わるだろう。平和条約を結べば、韓国に駐留する大義名分を失った米軍の撤退もあり得る。これは大統領選の時から同盟国に安全保障での負担増を要求し続けてきたトランプの意向にぴったりと沿う。

米軍が撤退すれば韓国は不安になり、北朝鮮と提携を強めるだろう。世論の大半は、大変な経済的負担になる北朝鮮との統一には後ろ向きだが、国内の意見はまとまっていない。親北勢力が北に都合のいい国家連合や統一案をまとめれば、核ミサイルとロシア以上のGDPを持つ統一朝鮮が誕生してしまいかねない。政治では一度物事に変化が生じると、あっという間に構図が変わることがあるのだ。

日本は「今は交渉過程から外れているように見えても、カネが必要になったら必ず日本の出番になる」と言わんばかりだが、中国マネーの前に「日本のカネ」はかすんでしまう。声が掛かってくるのを待たずに、日本は口先だけでもいいから目立つイニシアチブを今から取っておくべきだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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