コラム

日ロ首脳会談は「顔つなぎ」、北方領土問題の解決は難しい

2017年09月06日(水)11時10分

恒例行事化した日ロ首脳会談(4月、モスクワ) Sergei Karpukhin-REUTERS

<共同経済活動を夢見る日本にロシアから冷や水が......北朝鮮制裁すら抜け駆けするプーチンをどう諭すのか>

9月6~7日、ロシア極東のウラジオストクで恒例の東方経済フォーラムが開かれ、これまた恒例の日ロ首脳会談が行われる。安倍晋三首相とプーチン大統領が会うのは今年3回目。半年後に大統領選を控えるプーチンが領土問題で譲れるはずもなく、会談は顔つなぎでしかない。

安倍首相に力があるときだったら、首脳会談をめぐる報道は好意的、前向きとなっただろう。だが加計学園問題以来、流れは逆となり、今やあら探しに鵜の目鷹の目。今度の会談で目を付けられる「あら」は何だろう。

まず「北朝鮮の核ミサイル開発に、ロシアは技術や情報を提供している。最近は石油製品の輸出も増やして、北朝鮮制裁の抜け駆けをしている」という日本の懸念をどこまでプーチンに伝え、変化させられるか。

もう1つは、日ロで共同経済活動を話し合っているときに、北方4島を対象とした「経済特区」設置を8月23日にメドベージェフ首相が決定したのは信義に反するのではないか、という日本の怒りをプーチンに伝え、落とし前をつけさせるかどうか。

しかし、首脳会談ではこちらの要求事項リストをむやみに増やすべきではない。外交はギブ・アンド・テーク。向こうに非があっても先方はそれを認めず、改めさせようとすれば代償が求められる。日本があえて代償を払ったところで、事態はさして変わるまい。であれば、この首脳会談での「解決」は狙わず、場外で一方的に日本の立場を発信していくほうが、うまいやり方ではないだろうか。

中国が北朝鮮に圧力をかけていてもロシアが帳消しにする行動を取れば、中国は怒るだろうしロシアの信用は地に落ちる。日本は官民そろって、ロシアの抜け駆けをどんどん暴き、世界に知らせていったらいい。

北方領土の経済特区についても、ロシアが島を実効支配している以上、日本は止められない。

【参考記事】ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

「後期高齢者」の行く末

日本はこの件で声を上げても、ロシアのマスコミは「日本のヒステリー」と報じ、ロシア国民の対日感情を悪化させるだけだ。それよりも首脳会談の場や場外で、「日ロの共同経済活動のために、経済特区のような発想をさらに推し進めよう」と言っていればいいことだ。

むしろ今回の首脳会談の問題は、両首脳の足場が以前より弱くなっていることにある。安倍首相は来年秋に自民党総裁に再選されない可能性も出てきたし、プーチンも欧米で言われるほど強くはない。むしろ逆で、原油価格が長期低迷するなかでロシア経済はお先真っ暗だ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英サービスPMI、11月は51.3に低下 予算案控

ワールド

アングル:内戦下のスーダンで相次ぐ病院襲撃、生き延

ビジネス

JFE、インド一貫製鉄所運営で合弁 約2700億円

ビジネス

エアバス、今年の納入目標引き下げ 主力機で部品不具
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story