コラム

北朝鮮核開発が火を付けた、日本「核武装」論の現実味

2017年09月21日(木)17時20分

イギリスの核抑止を担う戦略ミサイル原子力潜水艦バンガード David Moir-REUTERS

<非核三原則の見直しは「核の傘」補強にならない――英仏に学ぶ国益を守るための核抑止戦術>

北朝鮮の核ミサイル開発が、「日本核武装」論に火を付けた。

日本はいつかアメリカに見捨てられ、慌てて核武装する――。キッシンジャー元米国務長官などがこう予言していたが、日本でも9月6日に石破茂元防衛相が「アメリカの核の傘をもっと有効にするには非核三原則の一部見直しが必要」と述べた。アメリカが日本を捨てるとは思わないが、本音ベースの核論議が必要になってきたようだ。

朝鮮半島の情勢は、話し合い解決の方向に流れている。米韓合同軍事演習はひとまず終わったし、アメリカは北朝鮮への武力行使を韓国に止められている。国連安保理の新しい制裁決議でカードを一応そろえたこともあり、中ロ両国を引き込んで話し合いでの解決を模索するだろう。朝鮮戦争の正式な終結、つまり北朝鮮の国家承認と外交関係の樹立、南北国境の画定などを定める平和条約の締結、そして北朝鮮の核の扱いが焦点となる。

それだけなら日本は安泰だ。たとえ北朝鮮に核が残っても、「日本を核攻撃すればアメリカが大量報復する」という脅しで抑止できる。しかし平和条約が結ばれ、韓国世論が米軍撤退を求め、さらに南北統一が起きると、ロシア以上のGDPと核兵器を持つ反日大国が日本のすぐ隣に出現することになる。

先制攻撃を招くドイツ式

その中で、内向きになったアメリカは中国にアジアを委ね、日本から手を引いてしまうだろうか。日本は裸一貫で中国、統一朝鮮、ロシア、アメリカとも渡り合うことになるのだろうか。

そうはなるまい。アメリカにとってアジアは、EUと並ぶ貿易相手だ。日本という足掛かりを失えば、中国とは手を結ぶどころか言いなりにさせられて、アジアで稼ぎにくくなる。だから日米同盟はアメリカにとっても必要で、日本の上には核の傘が差し掛けられ続けるだろう。

ただその核の傘も、近年では少し薄く透けてきている。オバマ前米政権時代、海軍は太平洋に展開するトマホーク巡航ミサイル搭載用の核弾頭を廃棄。アメリカが今アジアで保有する核抑止力は海軍が大型原子力潜水艦搭載の長距離核ミサイル、空軍が米本土配備のICBM(大陸間弾道ミサイル)、そしてグアム島配備の爆撃機に搭載した核爆弾や核弾頭付き空中発射型巡航ミサイルと、機敏に使いにくいものばかりになっているからだ。

では補強策は何か。石破が言うように非核三原則を緩和したとしても、核搭載の米艦艇は大型原潜だけになっている。これは隠密行動を常とするので、わざわざ日本に寄港したりしない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、金取引の規制検討 「巨額」取引がバーツ高要因

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省

ワールド

11月スーパー販売額前年同月比2.8%増、9カ月連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story