コラム

注目の新党はあえなく空中分解......韓国で第3党が成功しない理由

2024年02月27日(火)12時20分
韓国

李洛淵(左)と李俊錫の新党はあえなく空中分解 YONHAP NEWS/AFLO

<韓国の総選挙まであと1カ月あまり。どちらもスキャンダルを抱える2大政党への国民の不信は根深い。ならばなぜ、第3党ブームが起きないのか? その構造的理由>

多くの国で重要選挙が行われ、「選挙の年」と言われる2024年。韓国でも4月に国会議員選挙が行われる。現在、国会で少数野党の地位に甘んじる尹錫悦政権にとっては、負ければ早くもレームダック化の危機に直面しかねない、「絶対に負けられない選挙」である。他方、それは野党にとっても同じであり、2大政党は早くも、激しいつば競り合いを始めている。

とはいえ、選挙戦が盛り上がっているか、と言えばそうではない。大統領である尹錫悦率いる与党「国民の力」と、李在明が代表を務める「共に民主党」というマッチアップは、2年前の大統領選挙と全く同じである。左右の2大政党が延々と展開する政争に対する国民の不信感も強く、各種の国際世論調査で、韓国は先進国の中で最も議会への信頼度が低い国の1つになっている。

当然、ここで疑問が起こる。既成の2大政党への不信が強いなら、韓国にはどうして有力な第3党が出来ないのか。

それは可能にも見える。韓国ギャラップが行っている調査によれば、自らを左派あるいは右派だと答える韓国人はそれぞれ30%程度。残りの40%の人たちは自らが中道派あるいはそれ以外だと回答する。であれば、答えは簡単。中道派の第3勢力が政党をつくれば、この層の人々を取り組むことができ、一躍巨大政党が出来るのでは、と思える。

実際、韓国ではこれまで様々な中道派政党の結成が試みられてきた。そしてそれは今回ももちろん例外ではない。国会議員選挙を前に、それぞれ与野党から分裂して新しい政党ができた。しかも、党を離脱したのはなかなか大物だ。

与党を離脱した勢力の中心は李俊錫。先の大統領選挙時に30代の若き党代表として脚光を集めた人物だ。他方、野党から離れた人々の中心は、やはり元党代表であり文在寅政権期に国務総理をも務めた李洛淵。金大中政権のスポークスマンとしてデビューした彼は、野党の地盤である全羅道の有力政治家だ。

これら大統領や現党首の最大のライバルとも目された人物が結成した政党は、当初、選挙の「台風の目」となるかに思われた。とりわけ李俊錫の新党は一時期、世論調査で20%近い支持を集めた。しかし、選挙を1カ月余りに前に控えた今、ブームは過去のものになっている。1月末から2月初めの調査で、李俊錫、李洛淵が結党した新党の支持率はどちらも3%でしかない。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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