コラム

ナショナリズムを刺激する「軍艦島」の、世界遺産としての説明責任は重い

2020年07月27日(月)18時40分

言い換えるなら、そもそもが「世界遺産」への登録を、ある歴史的事象を自らの「国民史」の文脈に位置づけ直し、それにより国民的アイデンティティを鼓舞しようとする試みが既に転倒したものである。

そして、その事は同時にこの「世界遺産」という枠組みが、我々をして国際社会に対して歴史を語る時に何を考え、準備しなければならないのかという大きな宿題を与えている事を意味している。

勿論同じ事は、日本人のみならず、韓国人や中国人等、日本の過去に纏わる「歴史認識問題」に関わる全ての人について言う事が出来る。自国内でしか重要性を持たない「国民史」の枠組みを離れて、個々の歴史的事実を第三国の人々にもわかるようにどう説明するか。「世界遺産」が我々に突きつける「宿題」は、歴史認識問題に関わる全ての問題に共通した、一見したものより遥かに大きなものなのである。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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