コラム

車道に次々現れる100万以上の陥没...イギリスの悲惨な現状を象徴する「道路の穴」

2026年01月21日(水)13時01分

政府の「大胆な」政策とやらは、傷口に絆創膏を貼っただけにすぎないと受け止められることも多い。

最近発表された、患者が医師の診察なしで迅速に医療を受けられるようになるという新アプリにも、ガッカリ感が漂った。


「医師の診察を希望。医師につないでもらえますか」と入力したときに、14項目の的外れな質問に答えさせた挙句、「申し訳ありません、あなたの回答が理解できません」と表示し続けるボットにつながれる......そんな状況を人々は夢にも望んでいない。だからほとんどの人は、この新アプリは、わざわざ公金を投入して、医療崩壊状態にある国民保健サービス(NHS)に対する不満をさらに高めるだけだろうと考えている。

だが、ごく平均的な英国民なら、この国が滅茶苦茶になっている最も分かりやすい印として、道路の穴を挙げるかもしれない。

イギリスの道路にはあちこちに穴がある。報じられているところによれば穴は100万カ所以上あり、スピードを出して走る車はダメージを受けるし、ドライバーが穴に注意してゆっくり走行すれば交通の流れは悪くなる。数々の古い穴を修復するのを上回る勢いで新しい穴が次々現れるので、「未処理箇所」は増える一方だ。

英ポップスターのロッド・スチュワートは2022年、自宅近くの道路の穴を自分で埋めて問題を自らの手で解決し、所有する高級車の数々を無事走らせられるようにしたことで、ニュースの見出しを飾った。この一件は、地元の人々だけでなくイギリス全土のドライバーから称賛された。実際に何か行動を起こしている人だっているのだ。

僕自身は車を運転しないが、誰かの車に乗せてもらっているときは、ドライバーが運転やルートに集中しているために見落としているかもしれない道路の穴に目を光らせてやるのが、今や同乗者の標準的なエチケットだ。「気を付けて! あの水たまりはけっこう深そうだよ...」という具合に。

大型車が通るたびに家が揺れる

ちょうど僕の家の目の前にも穴が開いている。そこまで深くはないので、ドライバーはその上を普通に直進して、前輪と後輪で2回、ドン、ドン、と音を立て、正面の部屋にいる僕にもそれが聞こえてくる。

大型車が通過すると、僕の家は体で感じられるほど揺れる。僕の家は160年前の建築で、人々が大量に車を所有する時代など予期していない仕様で作られているのだから、こんな状況が家にとっていいはずがない。

数年前のある日、地方議会の計らいで自宅前の穴が修復されたので、僕は単純にも「良かった、これはこれで解決した」と思ってしまった。でももちろん、穴はまた同じ場所に出現した。僕の勘違いでなければ、以前より少し小さいが、以前より深くなっているようだ。明らかにこの問題は、ただ穴を埋めるだけでは済まないくらい根深い。

イギリスの伝統的2大政党の保守党・労働党をリードして今、各種世論調査で右派「リフォームUK」が堅調な支持を集めている理由を無理やりにでも一言で説明せよと言われれば、僕は「穴」と答えるだろう。国が壊れていて、それが何年も続いており、さらにはこの先も悪化するだけに思えるとき、人々は「エスタブリッシュメントじゃない」政党に頼るものだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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