コラム

デート中に危険な雰囲気...イギリスのパブで「アンジェラ」を呼ぶと起こること

2023年12月22日(金)19時28分
イギリスの史上最悪のレイプ犯レイナード・シナガ

イギリスの法律史上最悪のレイプ犯レイナード・シナガの被害者は全員男性だった。(左から)報道されたシナガの映像、自宅に常備されていた大量の酒、寝床 HANDOUT.ーREUTERS

<より広く知られてほしいと思うこの制度のお世話になるのは、女性ばかりではない>

しばらく前に、僕は「Help」の手話を覚えた。親指を内側にしてグーで握るポーズをしている人がいたら、それはその人が困っているけれど声を出して助けを求められない状況にいるという意味だ。僕の同僚記者の1人が、これについて書いたことがある。「皆がこのことを知っていれば、世界は少しだけより安全になるかもしれない」という文脈だった。

最近、他にもより広く知られるといいなと思う、とてもいいアイデアに出会った。僕がよく行くパブでは、いわゆる「アンジェラを呼んで」システムを取り入れている。これは、イギリスの多くの店で採用されている警察主導の取り組みだ。デートしている最中に怪しい展開になったり、あるいは不安や脅威を感じたりしたら、バーに行って「アンジェラ」さんを呼び出すふりをすればいい。これは暗号だ。この状況に対処する訓練を受けたスタッフが各店に随時1人以上いて、慎重かつ効率的にその人を安全な場所に誘導して助けることになる。スタッフエリアに連れて行って警察を呼んだり、帰宅するタクシーを手配したりする場合もある。

誰かにとってこのシステムが必要な理由はたくさんあると思うが、僕の頭に思い浮かぶのは、通称「ルーフィー」と呼ばれるデートレイプドラッグだ。ドリンクに忍ばせることができ、飲むと気を失う。通常、被害者が混沌として眠気を感じる時間はわずか。気を失う前に安全に帰宅できる可能性はほとんどないので、「アンジェラを呼んで」は明らかに有用だ。

もっと単純に、ドリンク中のアルコール量を急増させて「スパイク」させるという方法もある。ウォッカのコーラ割のウォッカ量を増やしてトリプルウォッカコーラ割にしたりするのだ。飲む人は自分がどれだけ飲酒しているか気付かず、結局は何もできないほど酔っぱらってしまう。

当然ながらこれに関する統計は少し不確かだが、できる限りで最も正確な予測データは非常に衝撃的だ。ユーガブの調査によると、女性の約10%がスパイクされた経験があるという。15%だという別の調査もある。若い女性たちは今ではこの問題をより認識しており、ある種の予防策を取ることを学んでいる(自分のドリンクを置きっぱなしにして席を立たない、など)。2021年には、大勢の人のいる店内で、大学生の女性がまさに注射針を使ってドラッグを注射されるなどというタイプの事件があちこちで起こり、報道された。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story