コラム

欧州の観光地も限界点......世界はオーバーツーリズムをどう克服している?

2023年11月11日(土)15時40分
ロンドンのバッキンガム宮殿前にあふれる観光客

ロンドンのバッキンガム宮殿前にあふれる観光客 HENRY NICHOLLS―REUTERS

<地元経済を潤すものの、大混雑と価格高騰と地元住民への不利益をもたらす観光公害に、ヨーロッパの各都市も知恵を絞っている>

オーバーツーリズム(観光公害)は「自分以外の誰か」が引き起こしているもの――大抵の人は大人気の観光地を旅行したことがあるのにもかかわらず、自分がその一因になっているとはなかなか考えないものだ。

幸運にも「古き良き時代」にこうした観光地を訪れ、大好きな場所が今やマスツーリズム(観光の大衆化)で台無しにされていると嘆く人もいるだろう。もちろんそう思うのは偽善的だが、これも人間の本性だ。僕もご多分に漏れず、最近のヨーロッパ周遊旅行でもついつい同じ旅行者たちに腹を立ててしまった。旅行者たちはこぞって同じ列車を予約し、ホテルの宿泊料金を吊り上げ、サグラダファミリアの周りで大群を作る。

ヨーロッパのいくつかの都市、とりわけイタリアのベネチアやフィレンツェ、ベルギーのブルージュやクロアチアのドブロブニクは、限界点に達している。ロンドンやパリなど正真正銘の大都市は、概して大量の訪問者を吸収できる収容能力があるが、テムズ川南岸やパリ中心部の地下鉄などでは大渋滞が起こっている。

日本はこれを並外れた勢いで経験しており、僕が日本に住んでいた頃(2007年まで暮らした)は旅行客の少ない穴場だったのが、18年までには訪日観光客3000万人突破の国へと激変した。拡大というより爆発的な増加で、変化に適応する時間があまりに限られていたため、ひずみが避けられずにいる。

人々の旅行する権利を大幅に制限でもしない限りオーバーツーリズムに特効薬はないが、できることはある。通常なら増税は怒りを買うものだが、ホテル宿泊に課す都市税(観光税)は確実に「理にかなっている」。旅行するなら旅先の財源に貢献するのは合理的だし、地元のカネで運営されるインフラが観光客のカネでも支えられているという事実は地元住民の反発をある程度鎮めてくれるだろう。

むしろ、イギリスが観光税を導入せず、住民の税金で運営される公園や公共施設などを外国人観光客が無料で使っているのはフェアじゃないように思える。

外国人用格安鉄道パスは不要

とはいえ、観光客の影響を受けている都市は、迷惑な側面に反発するだけでなく観光の恩恵にも目を向けるべきだ。結局は産業の一部である観光業は、地元ビジネスを潤し、雇用を支え、重要な文化遺産を維持する資金を提供してくれる。観光客のせいでウェストエンド(ロンドンの演劇の中心地)のチケットを入手するのは困難になったが、同地の劇場とミュージカル産業は彼らのカネで大いに栄えている。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カタール、ガス生産国に貿易障壁反対を呼びかけ

ビジネス

中国系電池メーカー、米工場の建設断念 ミシガン州が

ワールド

「経済あっての財政」が基本、戦略的に財政出動 高市

ワールド

英財務相、所得税引き上げ検討 財政赤字削減で=ガー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story