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アングル:戦火のベイルートを走る料理配達員、市民の「命綱」に

2026年03月25日(水)15時11分

3月18日、レバノンのベイルートにある配送センターで注文を待つ料理配達員ら。REUTERS/Emilie Madi

(文‌中の表現を明確にしました。)

Nazih Osseiran Emilie Madi

[19日 ロイター] - レバノンで料理‌配達業をしているハムザ・ハレブさんは、首都ベイルートで配達中にスモー​クガラスの車を見かけた場合、近づかないようにしている。同国を拠点とするイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが、その種の車を利用⁠するとのうわさがあり、ハレブさんは、​ヒズボラを標的としたイスラエルの攻撃に巻き込まれたくないと考えているからだ

イスラエルはここ数日、ベイルートの新たな地区に空爆作戦を拡大。アパートが直撃を受けたり、ビルが倒壊したりしている。今月2日にイスラエル領内を砲撃し、レバノンを地域紛争に引きずり込んだヒズボラを撃退するというのがイスラエル側の主張だ。

18日にイスラエルはベイルート中心部の⁠さまざまな地区を攻撃し、政府庁舎や飲食店、普段は交通渋滞が起きる道路からわずか数百メートルの場所をがれきの山に変えた。

市中では、おびえて外出を控え、宅配サービスに食事を頼る住民が増⁠えている。​何重もの危険をくぐり抜けて、料理を届けようと奮闘するハレブさんのような配達員の出番だ。

レバノンで最も利用されている宅配アプリ「トーターズ」が契約しているベイルートの配達員3000人の1人として働くハレブさんは「もちろんわれわれも恐怖心はある。いつでも」と語る。ほとんどのギグワーカー(単発仕事の請け負い労働者)と同じく、トーターズの配達員の報酬は1件ごとに支払われる仕組みだ。

2019年の金融危機後に長きにわたって経済的苦境と政治の不安定化に悩まされ、多額の債務を抱えたレバノンで、この仕事は多⁠くの人にとって生活していく上での「命綱」となっている。

ハレブさんは「いつ空爆があ‌るかは分からない。だからわれわれはあらゆる状況に適応してきた」と話す。

<警告なしの空爆>

イスラエルは時折、空爆前に対⁠象地区の⁠住民に避難するよう警告を出すが、18日に行われたベイルートに対する4回の空爆のうち3回はそうした警告がなかった。

ハレブさんは「いまイスラエルは警告なしの空爆を増やしており、当然ながら1日のほとんどを路上で過ごすわれわれも怖くて仕方がない」と打ち明けた。

配達員らは、ベイルートが予期せぬ攻撃にさらされた場合は、二輪車などを停めてどの地区が標的になったかを確認し、必要に応じてルートを変更‌する。避難警告が出された際には、同僚が対象地区を避けられるよう、業務用の連絡網を通じて情報を​共有して‌いる。

トーターズの運営責任者を務めるロー⁠ランド・ガネム氏は、イスラエルによる避難命令​が出ている地区への配達は行っておらず、配達員には標的となる可能性のある場所に近い危険な道路の通行を禁止していると説明した。

「人々が食料や生活必需品を手にできる、ただそのためだけに配達員は不透明な状況下で走り回っている。注文の背景に、家を失った家族や、店に行って食料を買えない高齢者、またただ懸命に1日をやり過ごそうとしている市民がいることを、彼らは理解しているのだ」という。

<戦争と生活>

レバノン当局によ‌ると、これまでのイスラエルの攻撃による死者は1000人弱に達し、さらに100万人が避難を余儀なくされている。

一部の配達員にとって、この戦争は文字通り身近な問題だ。

マフムード・アルベンネさん(34)は今月初め、イス​ラエルがベイルート南郊の全域に一斉避難命令を出し、激しい空爆⁠を開始した際に、自宅からの避難を迫られた。

それでもアルベンネさんは、「避難してもそうでなくても、お金を稼ぐ必要がある。われわれは戦争の渦中にあるが、結局のところ働きたい」と訴えた。

配達員の中で珍しい女性として目を引くのはマリー・カタ​ンジャンさん。夫がトーターズで働いており、彼女もそれに触発されて同じ仕事を始めた。

カタンジャンさんは「家族がいるのでこんな状況でも働かざるを得ない。われわれは手を取り合い、助け合っている」と述べた。

とはいえ、カタンジャンさんも街路を安全に運転できる日を待ち望んでいる。

カタンジャンさんは「戦争が終わってほしい。そうなればほっとできる」と訴えた。

ロイター
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