コラム

スローガンは立派、でも中身に乏しい政策目標はイギリスも

2023年01月30日(月)16時45分

だから、しばしば「持たざる者」ではなく「持てる者」のための政党だと揶揄される保守党は、苦境にあえぐ地域により力を割こうと努力している。費やされる資金はすなわち、単なる「バラマキ」ではなく、雇用創出プロジェクトに投じる長期的なものになるはずだ。

だが、予想にたがわずこれまでは、利益を受けた人々の喜びは利益を受けられない人々の不満の声にかき消されてきた。例えば、多くの資金が南部(裕福な地域内に存在する貧しい地区)に流れ、北部地域に行く資金のいくらかはそれほど貧しくない地域に流れているじゃないか、などと。

だから、イギリス政治では山ほどの出来事が起こっている一方で、そのどれか一つでも劇的な変化を起こせるようには思えない。率直に言えば、スナクの5つの約束は1つ1つ挙げてみるほどの面白さはない(イギリス政治に興味のある僕にとっても同様だ)。それぞれの公約はなかなか結構だが、苦境の保守党を急激に回復させることはないだろう。

スコットランドの状況は、スコットランド人の半数がイギリスからの完全独立を望み、英政府は完全にそれを阻止したい、と攻防する長いドラマの中のほんの「一幕」でしかない。

何十億ポンドと費やす公的資金は、ロンドンと南東部地域がイギリス経済の中心地であり良い仕事が豊富にある場所であり、才能ある人々を引き付けて住宅価格を押し上げ、不動産所有者の資産価値がどんどん上がっていく、という一般方程式を変えることはない。

だから、語るべきニュースは多いが、見るべき内容はあまりない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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