コラム

「暖房か食事か」インフレ下の極限の貧困は......本当の話?

2022年12月22日(木)10時55分

人々は町まで車で乗り付け(ガソリン価格もとんでもなく値上がりしている)、駐車場で料金を払い、店に行く。クリスマス前の毎週水曜日は、どの店も遅くまで開いているから、人々はさらに買い物がたくさんできる。こんなにも多くの人がこんなにも浮かれた大量消費に精を出している光景と、数多くの人が食事か暖房を選ばなければ(あるいは両方とも削らなければ)やっていけないという話が、どうしても相いれない。

理屈上は、極度に貧しい人々がイギリスにいるという事実は理解できるが、肌感覚としては「感じる」ことができない。そんなわけだから、この状況に対して強い怒りを覚えることもないし、何か対策を取れと要求することもない。もしも僕が地元選挙区の国会議員に道で出くわしたとしても、このことでクレームをつけたりはしないだろう(むしろウクライナ問題についてプレッシャーをかけたくなるかもしれない)。この国の人々も、ほとんどがそんな感じではないかと思う。

もちろん、深刻な貧困の中にいる人々は、それを隠そうとする傾向にある。なんとなく決まりが悪いと感じているからだ。慈善団体は、運や健康に左右されて貧困は誰にでも起こり得るのだ、ということを人々に浸透させるためにかなりの労力を割いている。だが、貧困は「まずい選択の積み重ね」の結果であると大半の人が考えていることも否定できない(未婚のシングルマザーで3人の子持ち、父親あるいは父親たちから養育費ももらっていない、など)。あるいは、(「私たちのように」)バリバリ働かないからだ、(「私たちとは違って」)カネにだらしないせいだ、と。

おそらく、「平均的な」僕たち一般人が家事の大変さをグチるのを聞いて、大金持ちの人たちも同じように感じるんだろう(「だったら家政婦を雇えばいいじゃないか」)。

僕も、おそらく多くのイギリス人も、深刻な問題があるに違いないと気づいており、それでも自分に影響はなく周りで見聞きもしないから真剣に懸念はしていない......と考えると、変な感じだ。たぶんこれは人間の摂理だが、あまり感じのいい側面ではない。特に「あらゆる人類に善意を向ける」ことが要求されるクリスマスのこの時期には。

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コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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