コラム

ラグビーW杯の日本躍進は奇跡でも偶然でもない

2019年11月01日(金)16時20分

スコットランド対日本の試合が台風の影響で中止になる可能性が出てきたときのスコットランドファンの驚愕の反応は、彼らのこうした台風認識のせいもあったと思う。彼らは「荒天」がそこまで大変だなんて考えられなかった。でも、ラグビーW杯の真っ最中に日本を襲った台風が広く報道されたことで彼らは学習し、ヨーロッパの気候が概して穏やかなのに対して、日本ではいかに破壊的な天災が起こり得るのかを初めて知ることになった。

3つ目に考えたのは、今大会が国際的にも大成功と見られているという点だ。日本人以外の選手たちも試合後に観客に一礼し、ピッチに向かってお辞儀してから退場するようになり、この素敵な敬意あふれる動作が目に留まって人々の話題に上っている。

個人的には、各チームの選手と一緒に入場する「マスコットキッズ」が、チームの国歌を習い、試合前に一緒に歌っていたのは素晴らしいことだと思った。特に目についたのは、準決勝でマスコットキッズの男の子がウェールズ国歌を歌っていたこと。この歌は、難しいと評判の(言うなれば)「マイノリティー」言語のウェールズ語で書かれている。話せる人は百万人を大幅に下回り、ウェールズ出身者以外で第二言語としてウェールズ語を学ぶ人はほとんどいない。

マスコットキッズたちはたぶん、外国語にカタカナをふって意味も分からず読んでいるだけなのだとは思うけれど、それでもあの男の子がウェールズ国歌を歌うのを目にするのは感動的だった。熱い愛国心を抱えた僕のウェールズ人の義弟もそうだが、ウェールズ人の中にもこの国歌の歌詞が分からない人はいる。だから僕は、緊張した面持ちのあの子が苦労してウェールズ国歌を学び、各地のスタジアムでも子供たちがそれぞれの国歌を習って歌ったことを、心から称賛したい。あらゆる人々が、W杯のヒーローだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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