コラム

「未来予測本」に振り回されない、2025年のメディアリテラシー

2021年04月21日(水)19時00分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<人間は不確実なものに弱い。「不安」に訴える商売は永遠に不滅だが、その特徴はもっともらしいが極論にすぎない「変化」が実現するという話を、具体的な数字を入れ込むことでリアリティーがあるように感じさせる点にある>

今回のダメ本

ishido_web02210421.jpg2025年を制覇する破壊的企業
山本康正[著]
SB新書
(2020年11月15日)

人間が最も弱いものの1つに、不確実性がある。将来はこう変わる、あなたの仕事の未来は危ない、いやあなたの存在自体が2025年には不要になっているかもしれない――こう言われて不安にならない人はいない。なぜなら、変化に直面しているのは大なり小なり、どこの世界でも同じだからだ。「不安」に訴える商売は永遠に不滅である。

私のいるマスメディア業界でも、この手の言説は定期的にはやる。2000年代、2010年代に限っただけでも、テレビ局がニコニコ動画に負けていくとか、ブログがあれば新聞は要らなくなるとか、SNSの誕生で5年後には業界全体が激変するといった話が持てはやされては消えていった。現実は見てのとおりである。劇的な変化はそう簡単に起こるものでなく、仮に起きたとしても、ゆっくりとしか起こらない。

この手の「不安商売」の特徴は、もっともらしいが極論にすぎない「変化」が実現するという話を、具体的な数字を入れ込むことによって、よりリアリティーがあるように感じさせる点にある。漠然と「いつか」ではなく、「5年後」「2025年」といったように。本書も見事にこの特徴に当てはまっている。

劇的な変化まであと4年?

冒頭から著者が描いた近未来の「小説」が展開される。それによると、新型コロナウイルスによって人類のテクノロジー進化は10年早まったらしく、街にはロボタクシーなる無人タクシーが走り、浦安から六本木をたった25分、210円で使えるようになっている。さらにAI先生なる人工知能が子供たちの質問に答え、子供たちの弱点まで分かっているので効率的に教える――と、こんな話があの手この手で展開される。これが2025年の姿なのだという。

アメリカのカリスマ実業家、イーロン・マスク率いるテスラ製のロボタクシーのおかげで鉄道の需要は激減し、東京・大阪間は時速1000キロのリニアがつなぐ。著者自らがテスラユーザーのためか、テスラという企業がすごい、テスラ製の商品を所有していること自体が先進的なのだというイメージを持たせたいことはよく分かる。

今は2021年だ。ここまで劇的な変化があと4年後には起きていないといけないのだが、具体的な事業はどうなっているのか全く分からないままだ。著者はわりと正直に「実際の実現は数十年のズレがあるかもですが」と断りを入れているが、2025年と2055年ではあまりにも開きがある。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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