コラム

5大陸の首脳27人が署名した「パンデミック条約」の仕掛け人と中身【声明全文訳付き】

2021年04月01日(木)15時20分

エリゼ宮で会談をするビル・ゲイツ夫妻とマクロン大統領(2018年4月16日) CHARLES PLATIAU-REUTERS

<このコロナ危機を終わらせ、また将来のパンデミックに備えるには世界の連携が不可欠だが>

3月30日、世界5大陸の25カ国の首脳と、欧州連合(EU)大統領、世界保健機関(WHO)事務局長の27人が、「パンデミック条約」の実現を提案した。

彼らは、パンデミックの脅威や、他の健康上の緊急事態には、いかなる国も組織も、単独では対処できないと指摘している。

そして、世界の指導者たちは、今のコロナウイルスの危機に終止符を打ち、将来的に同じようなシナリオを繰り返さないための措置をつくるべきだと主張している。そのためには、世界でみんなが一つとなる「連帯」が必要だと、繰り返し訴えている。

具体的には、「安全で効果的、かつ手頃な価格のワクチンと、医薬品、診断をする製品への、普遍的かつ公平なアクセスを確保することに取り組む」という。さらに、「予防接種は世界的な公共財であり、できるだけ早くワクチンを開発、製造、配備できるようにする」ということである。

27首脳は、署名が入ったトリビューン(論説・声明)を30日に発表、多くの新聞に掲載された。内容の全訳は、この記事の下に掲載した。

どのような経緯で生まれたのか

直接の始まりといえるのは、昨年2020年のことだろう。

2020年4月下旬に、テドロスWHO事務局長、マクロン・フランス大統領、デア・ライエン・EU欧州委員会委員長、そしてビル&メリンダ・ゲイツ財団が共同で、イベントを開催した。

その場で発表されたのが、新型コロナウイルスと闘うための道具へのアクセスを、加速するための取り組みである。これは「ACT Accelerator」と呼ばれている。

(正式には「Accelerator for Access to Covid-19 」、直訳すると「新型コロナウイルスに対するアクセスを加速する取り組み」)。

この取り組みには、WHOやビル&メリンダ・ゲイツ財団だけではなく、グローバルファンド、CEPI(Coalition for Innovations in Epidemic Preparedness)、FIND、GAVIアライアンス(ワクチン連合)、Unitaid、Wellcome、そして世界銀行グループが参加している。これらの団体と、政府、科学者、企業、市民社会、慈善団体を一つにまとめて、パンデミックの収束を加速させようとする枠組みである。

目的は、新型コロナウイルスの診断をする製品、治療薬、ワクチンの開発・製造を支援して、死亡率と重症度を急速に低下させること。短期的には医療システムを保護し、社会・経済活動を完全に回復させて、中期的にはコロナウイルスの高度な制御を促進することである。そのために力を合わせたのだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 3
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story