コラム

静かに進む「デジタル植民地化」──なぜ日本はデジタル主権を語らないのか

2025年11月28日(金)12時26分

デジタル主権、データ主権、サイバー主権

デジタル主権にはさまざまな定義があるが、ひらたく言うと国家が自律的に意志決定を行い、活動できることを指すようだ。そこには支配や統治なども含まれる。現在のインターネットはSNSを始めとするプラットフォームやLLMが国家の枠を超えて活動している。

当たり前だが、これらを自国のインフラの一部に組み込んだり、重要な役割を担わせるような依存はデジタル主権を損なうことになる。

デジタル主権を尊重する立場から見ると、アメリカ企業のSNSを重要な国民のとのコミュニケーション手段や、災害時の連絡手段として位置づけたり、某政党が行ったようにアメリカのLLMにファクトチェックさせるような行動は自らデジタル主権を放棄する行動と言うこともできる。

アメリカ企業にデジタル主権を差し出すようなものだ。もちろん、さまざまな法制度によってアメリカ企業の影響や干渉を抑制する試みも行われているが、あくまでも「試み」であり、その効果がわかる前に国内で利用が進んでいるのはデジタル主権という観点から考えると問題だ。

他国のデジタル主権に影響をおよぼすのはほぼアメリカと中国なので以下はそれを前提としてお話ししたい。中国やアメリカ(企業)のデジタル植民地、デジタル属国となることが嫌ならなにか方策を講じる必要がある。

デジタル主権は、データに関するデータ主権、運用を自国の法制度に基づいて行う運用主権、設計から開発・運用までの技術に関する技術主権といった要素にブレイクダウンできる。デジタル主権の要素はいくつかのバージョンがあるが、データ主権と運用主権は共通していることが多いようだ。

データ主権はデジタル主権の要素でデータについての主権なので、データを自国で管理、制御できることを指す。EUのGDPRなどいくつかの国はすでに法制化して自国で自国のデータの管理ができるようにしようとしている。

こちらもいくつかの国で、その影響を制御するための「試み」が行われているが、効果が検証されているわけではない。その一方で利用は進んでいるので......以下同文。

一方、EUなどとは異なるアプローチを進めているのがインドで、国家のデータインフラ(日本のマイナンバー、中国の社会信用システムなど)とそれに基づく送金、電子署名、本人確認、ストレージサービスを構築し、民間に解放し、国内の独自サービスを育成している。

デジタル主権とデータ主権はアメリカ以外のグローバルノースの国でテーマとなっているが、サイバー主権は中露など権威主義国が推進している。サイバー主権は、国家という枠組みをサイバー空間に持ち込む考え方だ。

リアル空間がそうであるようにサイバー空間でも国家単位での管理を原則とすることを目指している。必然的にデジタル主権やデータ主権もそこに含まれることになる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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