コラム

暗号通貨が変わる? デジタルドルの衝撃──バイデンの大統領令の意味

2022年03月18日(金)16時43分

既存の暗号通貨にはマイナスのインパクトになる可能性が高い...... Pineapple Studio-iStock

<デジタルドルとデジタル人民元の覇権争いになるのは間違いなく、これまでにはない戦いとなるだろう......>

世界90カ国、GDP90%以上が中央銀行デジタル通貨プロジェクトを推進

2022年3月9日、アメリカ大統領バイデンは、暗号通貨(仮想通貨)に関する大統領令にサインした。これまでアメリカは暗号通貨に慎重な立場を取っていたが、一転して早期に具体的な検討に入ることとなった。政府が発行する暗号通貨は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)と呼ばれ、国の通貨となる。

CBDCでは、すでに実験段階に入っている中国のデジタル人民元が有名だが、他にナイジェリアなどの9カ国が導入を果たしている。2021年12月の段階で実験段階の国は15カ国におよび、開発中の国は16カ国、40カ国が具体的な行動に移っている。調査、検討を含めた国のGDPの合計は世界の90%を占める。2020年5月には35カ国だけだったことを考えると、CBDCが急速に広がっていることがわかる。

EBAE827109_1_105_c.jpeg


日本では、日本銀行が実証実験と制度設計の段階に移ろうとしている(日本銀行)。

インドも2022年2月1日に近々デジタルルピーを発行することを発表した。世界各国のCBDCは待ったなしのスピードで進んでいる。

アメリカはだいぶ遅れているが、世界の基軸通貨であるドルがデジタル化することのインパクトを考えると慎重になるのも当然と言える。

デジタルドルのインパクト

大統領令のニュースを受けて、既存の暗号通貨の価格は上昇した。これからデジタル通貨が広がることは間違いないが、だからといって既存の暗号通貨がそのまま生き残れるとは限らない。なぜならアメリカがCBDCを推進する大きな理由は、自分でコントロールできる通貨が必要だからだ。現在、流通している暗号通貨の多くは国家が制御できるようにはデザインされていない。

今回の大統領令はアメリカが世界の金融をリードし、資金の流れを把握、コントロールできるようにするための仕組み作りを宣言したようなものだと考えられる。デジタルドルがサイバー空間の基軸通貨になれば、アメリカはいつでも強力無比な経済制裁を実行できるようになる(なにしろデジタル決済や送金をストップする)。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政

ワールド

米特使「ロシアは時間稼ぎせず停戦を」、3国間協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story