コラム

日本の警察は、今年3月から防犯カメラやSNSの画像を顔認証システムで照合していた

2020年09月14日(月)16時30分

全国の警察で3月から民間の防犯カメラやSNSの画像を顔認証システムで照合していた......  (写真とは関連がありません) REUTERS/Thomas Peter

<全国の警察で3月から民間の防犯カメラやSNSの画像を顔認証システムで照合していたことを共同通信が報じた......>

前々回の記事「日本の警察は世界でも類を見ない巨大な顔認証監視網を持つことになるのか?」では、顔認証システムの拡充が進んでいることと、警視庁がリアルタイムで民間の監視カメラを一元管理し、顔認証システムで識別するシステムを持っていることをご紹介し、今後さらに拡充されていく可能性を指摘した。

それを裏付けるように9月12日に共同通信が全国の警察で3月から民間の防犯カメラやSNSの画像を顔認証システムで照合していたことを報じた(47NEWS、2020年9月13日)。日本の先を行くアメリカで顔認証システムの利用の見直しが始まっている時期に、あえて全国的な利用に踏み切ったことになる。

アメリカではいくつかの地域が顔認証システムの利用を禁止している。つい先日もポートランド市が市当局ならびに民間企業の顔認証システムの利用を禁止したばかりだ(cnet、2020年09月11日)。その理由は、プライバシー侵害、人種差別、性差別があるためとしている。

顔認証システムの問題点

・現在の顔認証システムには精度に問題があり、偏りがある

以前の記事「アメリカの顔認証システムによる市民監視体制は、もはや一線を超えた」でご紹介したように、現在の顔認証システムは、精度や偏りの問題がある。アメリカ自由人権協会(ACLU)は、精度、特定の人種などへの偏見の助長、憲法に抵触する危険、透明性の欠如などさまざまな問題があり、いったん利用を禁止し、調査と法制度の整備を行う必要があると指摘している。Amazon、マイクロソフト、IBM、グーグルといった企業は顔認証システムの提供を停止した。

照合した相手が顔認証データベースに登録されている人物と異なることは実際に捜査すればすぐにわかるだろうが、理由なく捜査対象になることは問題であるし、警察の訪問を受ければ周囲から不審な目で見られることもあるだろう。警察も無駄な労力を費やすことになる。

・照合するのは「裁判で有罪となった人物」ではない

共同通信の記事によれば、今回の警察の顔認証データベースには過去に逮捕した容疑者の顔写真が登録されており、これと民間の防犯カメラやSNSで公開されている写真を照合する。言葉通りに受けとれば、データベースには無罪判決を受けた者も含まれていることになる。

さらに前回の記事「犯人を予測する予測捜査システムの導入が進む日米 その実態と問題とは」でも触れたが、日本では刑法犯で検挙された半分以上が不起訴となっている。つまり裁判を受けていない。

不起訴には、「嫌疑なし」、「嫌疑不十分」、「起訴猶予」の3つがある。「嫌疑なし」、「嫌疑不十分」は文字通りの意味で、「起訴猶予」は嫌疑が「明白」な場合でも検察官の判断で起訴を猶予することができる仕組みだ。ただし、「明白」とは言っても裁判を経たものではなく、当然有罪が確定したわけでもないので、推定無罪の原則(刑事裁判で有罪宣告を受けるまで被告人は無罪として扱わなければならない)がある以上、「潜在的な犯罪者」として扱うことに懸念が残る。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、9月利下げ観測維持 米ロ首

ビジネス

米国株式市場=まちまち、ダウ一時最高値 ユナイテッ

ワールド

プーチン氏、米エクソン含む外国勢の「サハリン1」権

ワールド

カナダ首相、9月にメキシコ訪問 関税巡り関係強化へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story