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焦点:ニューサム氏ら民主党有力州知事、「反トランプ」で次期大統領選へ弾み

2025年12月15日(月)14時46分

写真はニューサム・カリフォルニア州知事。ブラジル・ベレンで2025年11月撮影。 REUTERS/Adriano Machado

James Oliphant

[ワシントン 14日 ロイター] - トランプ米大統領の攻撃的な政策は、経済構造や移民対策を変容させているだけではない。2028年の大統領選に向けて、野党民主党の有力州知事3人を勢いづかせるという皮肉な構図も生み出している。

その3人とはカリフォルニア州のニューサム知事、イリノイ州のプリツカー知事、メリーランド州のムーア知事だ。いずれもトランプ氏の言動を利用して民主党内の基盤を強化し、トランプ氏と好対照となる政策姿勢をより明確に打ち出すとともに、それぞれが地元州以外にも支持層を広げようとしている。

トランプ氏は、来年の議会中間選挙で与党共和党が有利になる選挙区割りに変更するよう同党が優勢な州に働きかけているほか、民主党系の首長がいる都市には軍隊式の不法移民摘発を実施し、連邦予算を大幅に削減。こうした仕打ちに対する民主党側の猛反発が、次期大統領選のために知名度を上げようとしている州知事にとって絶好の機会になった。

次期大統領選への出馬を検討しているニューサム氏は、自らが提唱した住民投票を通じて、カリフォルニアの選挙区を共和党有利に変えようとしたトランプ氏の目論見をくじいた。ニューサム氏はこの成功をテキサス州ヒューストンの集会で民主党員とともに祝福し、カリフォルニアの外での知名度向上を狙ったと見られている。

プリツカー氏は、自身をトランプ氏の強圧的な摘発に対する移民社会の守護者と位置付けている。先週には学校や裁判所で連邦当局による逮捕を禁止する法案に署名。またニューハンプシャー州や中西部ミネソタ州で開かれた民主党の集会に登場し、トランプ氏により大胆に立ち向かうよう党に呼びかけた。

ムーア氏は最近の連邦政府閉鎖中、トランプ氏が連邦職員や低所得層向け食品購入支援制度(SNAP、旧フードスタンプ)の削減を進めたことを強く非難しmメリーランドではSNAPの給付を完全に復活させた。幾つかの激戦州での民主党候補の応援にも飛び回り、こうした行動をトランプ氏の政策に直接対抗する手段としている。

<トランプ氏を止めろ>

3人の州知事の動きは、昨年の大統領選で党候補のカマラ・ハリス氏がトランプ氏に敗北し、共和党が議会上下両院を制した後、党勢回復が求められていた民主党内に安堵(あんど)と興奮をもたらした。

ヒューストンでニューサム氏が演説した集会に参加したハリス郡民主党委員長を務めるマイク・ドイル氏は、聴衆がこれまでにないほど「熱狂的」だったと描写。中間選挙やその先の次期大統領・議会選で民主党が勢力を強めたいと考えているテキサスをニューサム氏が訪れたことを評価した。

ドイル氏はインタビューで「28年大統領選に向けた事実上の選挙戦をヒューストンで開始するというニューサム氏の決断は、民主党が必要としている攻撃的で数学的に洗練された考え方を現場の多くの人々に示した」と述べた。

複数の民主党ストラテジストは、自らの立ち位置を確定し、トランプ氏の時代にどのような対抗軸を打ち出すかになお苦戦している同党に対する多くの党員の不満を、これらの州知事が巧みに取り込みつつあると分析する。

民主党系世論調査員のコーネル・ベルチャー氏は「民主党員に世論調査で、選挙で選ばれた公職者に最も望むことは何かと聞けば、その答えはトランプ氏(の暴走)の抑制だ」と説明した。

ベルチャー氏の目には、今の状況がオバマ元大統領の政治家としての躍進に重なるようだ。当時ほぼ無名だったオバマ氏は、イラク戦争への反対を通じて当時のジョージ・W・ブッシュ政権下で全国的な注目を集めるようになった。

これら民主党知事の知名度が上がるとともに、トランプ氏は「口撃」を強めている。ニューサム氏については「ニュースカム(知事の名前とクズを意味する英語を組み合わせた悪口)」とののしり、プリツカー氏は「狂人」「デブ」などと呼んでいるほか、ムーア氏は犯罪を抑制できていないと指摘した。

ホワイトハウスはロイターのコメント要請に対して共和党全国委員会(RNC)に問い合わせるよう求め、RNCはニューサム氏やプリツカー氏ら民主党の州知事は主流有権者とかけ離れた位置にいるとの見方を示した。

<注目度高いニューサム氏>

ニューサム氏がこのような政治状況を最も有効に活用しているのは間違いない。同氏は大統領選を目指す政治家にとって重要な主戦場となっているソーシャルメディアに、トランプ氏をからかう内容の投稿を繰り返している。

今月だけでも、トランプ氏が国際サッカー連盟(FIFA)から「平和賞」を受賞した件で、これは「参加賞」に過ぎないと切り捨て、閣議中に居眠りしているトランプ氏の様子を嘲笑するなど精力的だ。

7月には28年の大統領選で民主党予備選の最初の開催地となる公算が大きい南部サウスカロライナ州を訪れたほか、トランプ氏が代表団を送るのを拒否した国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)ではトランプ政権の経済・エネルギー政策を痛烈に批判して主役の1人になった。

ニューサム氏はインタビューで、28年の大統領選に出馬するかどうかは中間選挙後に決断するとしている。

同氏の政治顧問を務めるブライアン・ブローカウ氏は「多くの公職者はトランプ氏と彼のやり方にビクビクしている。しかしニューサム氏はそうでないと証明してきた」と主張した。

ムーア氏やプリツカー氏も負けていない。ムーア氏は5月にサウスカロライナの民主党夕食会で演説した後、6月には有力団体、全米黒人地位向上協会(NAACP)が激戦州の1つ、中西部ミシガン州で開催した会合でも発言した。先月にはトランプ氏に対抗する形でメリーランドの選挙区割りに関する独自案も打ち出した。

あるムーア氏の政治顧問は「トランプ氏流の統治のために、本来なら全国的な問題にならなかったかもしれない事案が全国レベルに切り上げられている」と述べた。

プリツカー氏は4月、やはり28年大統領選で早期に予備選が行われる可能性があるニューハンプシャー州でトランプ氏を強烈に批判する演説を行い、同時に民主党も「臆病だ」と苦言を呈した。6月にはミネソタ州の民主党夕食会で話題を集め、7月には激戦州の南部ノースカロライナ州で別の夕食会に参加した。

先月のロイター/イプソス世論調査によると、民主党支持者の64%がニューサム氏に好意的な意見だった。これに対し、回答者の半数以上がてプリツカー氏とムーア氏はよく知らないと回答しており、2人にとって全国的知名度獲得のための努力が必要なことが明らかになった。

ロイター
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