焦点:米政権の燃費基準緩和、車両価格低下はガソリン費負担増で帳消し
写真はフォードのピックアップトラック。10月20日、米カリフォルニア州エンシニータスで撮影。REUTERS/Mike Blake
Valerie Volcovici
[ワシントン 8日 ロイター] - トランプ政権が打ち出した、バイデン前政権下の自動車燃費規制の見直し案が波紋を広げている。新たな案は、米国の自動車メーカーに数百億ドル規模の負担軽減をもたらし、消費者にとっても新車購入時の価格を押し下げる可能性があるとされる。
しかし、業界の専門家の試算や政権の見通しによれば、販売店でのこうした「お得感」はすぐに消え、ドライバーは全米各地のガソリンスタンドで、より高い燃料費という形で代償を支払うことになるという。
米道路交通安全局(NHTSA)と米環境保護局(EPA)は3日、2031年までに平均燃費基準を1ガロン当たり34.5マイルに引き下げる提案を発表した。これはバイデン前大統領が設定した1ガロン当たり50.4マイル(1リットル当たり21.4キロ)から大幅な規制緩和となる。
<自動車メーカーは数百億ドル節約>
NHTSAの経済分析によると、自動車メーカーは結果として31年までに350億ドル(約5兆4250億円)を節約し、メーカーが節約分を消費者に還元することを前提とすれば、車両の初期購入費用が平均で約930ドル下がるだろうという。
しかし同じ分析によると、この提案は燃料消費量を50年までにバイデン基準と比べて約1000億ガロン増やし、米国民に最大1850億ドルの負担をもたらす。
「運輸省は現時点で技術コストの節約額を大きく見積もるが、燃料節約の面ではそれ以上に大きな損失が出ると見積もっている」とニューヨーク大学政策整合研究所の法務責任者のジェイソン・シュワルツ氏は述べた。
長期の自動車ローンを組む購入者にとっては、そのわずかな購入価格のメリットさえ実感しにくい可能性がある。購入時の節約額がローン期間全体に薄く伸びてしまう一方で、燃料費は即座に増えるからだ。
「運転を始めたその初日から、燃費の悪いクルマを維持するコストは消費者にとって高くつくことになる。ガソリン代は増え、修理費も増え、ガソリンを入れるために浪費する時間も増える」と同氏は語った。
<政権は規制緩和を擁護>
トランプ政権側は、この燃費基準の緩和案について、自動車産業を後押しし、消費者にも恩恵をもたらすものだと強調している。燃費の悪さを理由に姿を消したステーションワゴンなど、1970─80年代の家族旅行を象徴する車種の復活を可能にするとの触れ込みだ。
トランプ政権はバイデン基準について、より高価な電気自動車(EV)の導入を事実上義務づけるものだと批判し、米国の自動車メーカーがEVを採算ベースで生産するのに苦労しているとした。
NHTSAの分析によると、今回の提案の恩恵を最も大きく受けるのは、米国のフォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)、そしてクライスラー、ダッジ、ラムブランドを米国で製造する欧州系ステランティスなどだとされる。
<科学者は分析に異議>
一方、「憂慮する科学者同盟」でクリーン輸送政策を担当する上級科学者のデイブ・クック氏は、この提案は消費者にとって経済的打撃になると述べた。
NHTSAの分析について「消費者はバイデン前政権の燃費基準に比べて、27年モデル以降では、技術的なコストの節約分を上回る燃料コストをずっと支払うことになるだろう」と語った。
クック氏はまた、トランプ政権の分析が自動車排気ガスや温室効果ガス排出の増加に関連した経済的損失を除外していると批判した。
NHTSAの分析によると、この提案が実現されれば二酸化炭素(CO2)排出量はバイデン政権時の基準よりも約5%増加するという。EPAによると、輸送部門は米国内で最大のCO2排出源だ。
トランプ氏は地球温暖化を「詐欺」と呼び、米国を国際的な気候対策から離脱させた経緯がある。
NHTSAはコメント要請にすぐに応じなかった。
EPAは、ゼルディン長官が米国の自動車産業の再活性化を優先課題の一つに掲げていると説明する。
声明で「EPAは権限の範囲内で規則を制定することでこの約束を果たし、消費者に選択肢を提供する」と述べた。
自動車購入者向け消費者調査ガイド、エドムンズのアナリストは、車両の初期購入費用の節約分が燃料費の支払い増加でどれくらい早く相殺されるのか予測するのは時期尚早だろうと述べた。ロイターに対し、製品開発サイクルは通常数年前から計画されるため、実質的な影響が現れるまでにしばらく時間がかかるだろうと語った。





