アングル:高市氏発言、早期利上げ機運後退 市場は日銀けん制と解釈

10月6日、 自民党の高市早苗新総裁(写真)が4日の就任会見で金融政策の「責任を持たなければいけないのは政府」などと述べ、市場関係者は利上げのけん制と受け取った。都内で4日代表撮影(2025年 ロイター)
Takahiko Wada
[東京 6日 ロイター] - 自民党の高市早苗新総裁が4日の就任会見で金融政策の「責任を持たなければいけないのは政府」などと述べ、市場関係者は利上げのけん制と受け取った。日銀内には物価高対策を最優先に掲げる高市氏の政策に沿うとして、利上げを続ける方針に影響はないとの声があるが、高市氏は「デフレを脱したと考えるのは早い」とも話しており、市場で意識された早期利上げ機運は急速にしぼみつつある。
高市新総裁の発言翌日、日銀内からは利上げの障害にはならないとの見方が聞かれた。総裁選の期間中に物価高対策の重要性を強調してきた高市氏は、4日の会見でも「何としても物価高対策、ここに力を注ぎたい」と語った。利上げは円高を通じて国内物価を押し下げる効果が見込めることから、高市氏の政策と符合するとの見立てだ。
しかし、市場関係者の多くはそう受け止めていない。元日銀審議委員の木内登英・野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストは、日銀が利上げ時期を「遅らせる」とみる。10月会合を含めて早期に利上げに踏み切って失敗した場合、「政治介入を招く可能性がある」と話す。
自民党初の女性総裁に就任した高市氏は、10月中旬にも開かれる臨時国会で日本の憲政史上初の女性首相に指名される見通し。4日の会見では、現在の物価高は「コストプッシュ型」によるもので、需要がけん引する形のインフレになるまで「日銀とのコミュニケーションを密に取っていかなければならない」と語った。政府・日銀の共同声明(アコード)を見直す可能性にも踏み込んだ。
日銀は9月中旬の金融政策決定会合で高田創、田村直樹両審議委員が利上げを求めた。市場は1人ではなく2人が政策金利の据え置きに反対したことに注目。同月下旬には利上げに慎重なことで知られる野口旭審議委員が「政策金利調整の必要性がこれまで以上に高まりつつある」と述べ、10月の利上げの可能性が急速に意識された。東短リサーチ/東短ICAPによれば、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む10月会合での利上げ確率は6割程度まで上昇した。
野村証券の岩下真理・エグゼクティブ金利ストラテジストは、日銀からの一連の発信を早期利上げのサインと受け取った1人だ。しかし、高市新総裁が「財政政策にしても、金融政策にしても、責任を持たなければいけないのは政府」と述べたことを踏まえ、利上げには「政府との調整に時間が掛かるのではないか」とみるようになった。国内外の経済・物価動向に関する情報やデータが蓄積するという意味でも、次回利上げは12月と予想する。
高市氏の発言から最初の取引となる6日のマーケットについて、円安が進むとの見方が市場では出ている。円安はさらなる物価の上昇につながりかねないことから、物価高対策を最重点課題に掲げる高市氏が金融政策の「責任は政府にある」と話したことをいぶかしがる専門家もいる。
元日銀審議委員の白井さゆり・慶応義塾大学教授は5日朝のNHKの番組で、「日銀は経済が弱い中で少しでも円安を是正しようとして少し利上げしようとしているのに、けん制することになってしまう。もっと円安が進んでしまう可能性がある」と語った。「物価に対する影響など、もう少しこれから明確に説明していただきたい」とも述べた。
日銀では自民党総裁選に際して、もし高市氏の当選を織り込む形で円安が急速に進めば物価をさらに押し上げるとして、早期の利上げにつながるとの見方が出ていた。その一方で、同氏の財政拡張的な主張で金利が跳ね上がれば緩和的な金融環境に水を差しかねないとして利上げ判断を遅らせる方向に向かいやすいとの声も出ていた。
植田総裁は3日、大阪経済4団体共催懇談会で、「世界経済の動向、関税政策が日本企業の収益や賃金・価格設定行動に与える影響、食料品価格を含めた物価動向」を利上げに向けた点検ポイントに挙げた。特に米経済の動向を注視する考えを改めて表明したが、高市首相誕生の公算が大きくなったことで、もう1つ目を配る要素が加わった。植田総裁は同日の会見で、「どういう方が首相になっても、十分な意思疎通を図っていきたい」と述べていた。
明治安田総合研究所の前田和孝エコノミストは、「利上げ自体は止めることはないとしても、ゆっくりになる可能性はある」と話す。「物価次第だが、年明けになる可能性は十分にある」と言う。
(和田崇彦 取材協力:山崎牧子、竹本能文、内田慎一 編集:久保信博)