「サナエノミクス2.0」へ、総裁選で自動車税停止を断言 診療報酬も引き上げ

自民党総裁選で新しい総裁に選ばれた高市早苗前経済安全保障担当相は、選挙戦を通じて金融緩和と積極財政というかつての「サナエノミクス」を前面に出すことはなく、「大胆な危機管理投資と成長投資」を訴えた。写真は9月19日、東京で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
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Tamiyuki Kihara
[東京 4日 ロイター] - 自民党総裁選で新しい総裁に選ばれた高市早苗前経済安全保障担当相は、選挙戦を通じて金融緩和と積極財政というかつての「サナエノミクス」を前面に出すことはなく、「大胆な危機管理投資と成長投資」を訴えた。主要政策や演説の発言などから、高市氏が今回掲げた「サナエノミクス2.0」とも言える経済政策を整理する。
<「大胆な投資」を強調>
高市氏は9月19日、国会内で立候補を正式に表明した。「財政健全化は重要」とする一方、経済成長の重要性を強調し「成長投資で強い経済を実現する」と語った。「世界の潮流は行き過ぎた緊縮財政ではなく、社会の課題解決に向けて官民が連携して投資を拡大する責任ある積極財政へ移行している」と持論も述べた。
会場で配布されたA4判2枚の主要政策は「日本列島を、強く豊かに。」と題し、「大胆な危機管理投資と成長投資」で暮らしの安全確保と強い経済の実現を掲げた。
消費減税の主張を取り下げ、給付付き税額控除の制度設計に着手することも表明。立憲民主党など野党が実現を求めている政策でもあり、今後協議が進展する可能性がある。
<自動車税を2年間限定で「停止」>
選挙期間中の討論会や演説では、より具体的に政策を語る場面もあった。
9月26日に名古屋市で開かれた演説会では、地域性を考慮して自動車産業への支援を強調。「自動車関連産業を何としても守り抜く」と宣言し、「年度末に向けてもし(米国の)関税の影響が深刻に出てきた場合、『ゼロゼロ融資』はもちろんだが、日本人が自動車を購入する仕組みも考えている」と打ち出した。
具体例として、自動車を取得した際にかかる自動車税環境性能割を「2年間に限定して停止する」と表明。「ちょうど買い替え時期の人が、税金が停止されているうちに買おうというモチベーションも起きてくる」と述べた。
<「診療・介護報酬を臨時国会で見直し」>
「健康医療安全保障」も目玉政策の一つだ。名古屋市での演説では「補正予算を秋の臨時国会で組む。例えば診療報酬を過去2年分の人件費や物価高を反映して早めに上げる。介護報酬も本来なら2027年が改定時期だが同じように改定する」と言い切った。
食料安全保障についても具体策を語った。今後5年で農業構造転換に向けた投資を強化するとし、「いま(政府で)考えられている金額よりもぐっと大きくして集中的にやることで、転作ではなくいまの生産そのものへの応援をする」とし、農地の大規模化などにも取り組むと述べた。
<「アホ」とした利上げは穏当に>
もう一つ、選挙期間を通じて注目されたのは高市氏の金利への認識だ。昨年の総裁選では日銀の利上げについて「はっきり言うと早い。まだ金融緩和を続けるべきときだ」と断言。利上げするのは「アホやと思う」とも発言していた。
一方、今回の選挙戦では過激な主張を封印。9月24日の日本記者クラブ主催の討論会では「財政政策も金融政策もきちっとした方向性を決める責任は政府にある」とし、金融政策の手段については日銀が決めるべきとの見解を示していた。
ただ、他の候補が慎重姿勢を示していた赤字国債の発行については「将来世代への最大のツケは借金ではなく成長の喪失だ」などと、唯一積極的な姿勢を訴えていた。
ある経済官庁の幹部は「市場の高市氏へのイメージは積極財政そのもの。そのイメージが先行すれば短期的には円安、株高が進行するだろう」と話す。とはいえ、昨年の総裁選時に比べて物価高が深刻化する中、高市氏が利上げの必要性を感じている可能性もあるとし「財政を吹かせつつ金利を高めに誘導する政策はとり得るのではないか」と話した。
(鬼原民幸)