最新記事
MLB

「テレビには映らない」大谷翔平――番記者だけが知る素顔と現場【note限定公開記事】

A REPORTER’S NOTES

2025年10月2日(木)19時16分
柳原直之(スポーツニッポン記者、MLB担当)
囲み取材に応じる大谷翔平と、取り囲む日米メディア

結婚発表後の昨年2月29日、アリゾナ州のキャンプ中に取材に応じる大谷と、筆者(前列右から2人目) JOE CAMPOREALEーUSA TODAY SPORTSーREUTERS

<日ハム時代から取材歴12年。番記者が現場で拾った大谷翔平の「言葉の選び方」「沈黙」「視線の動き」から、「画面では見えない」姿をつづる>


▼目次
1.大谷はMLBでも異例の「会話禁止」対応
2.先攻はアメリカ、後攻は日本、通訳(アイアトン)側は激戦区
3.バットと同様、芯に当たる質問だけが、本音と実感を引き出す
4.メディアとは一線、元同僚・先輩も優遇せず

大谷はMLBでも異例の「会話禁止」対応

ドジャースの大谷翔平を日本ハム時代から追いかけ、2025年で12年目を迎える。

大谷の登板日のプレスボックス(記者席)では、試合が9イニング目に入る頃になるとインターネット用の速報記事を打つパソコンの手が止まり、一気に慌ただしくなる。

テレビ局や新聞社の決まった数人の記者が、プレスボックスからベンチ裏のクラブハウス(日本で言うロッカールーム)の前まで足早に向かう。

私もその数人の記者の1人で、ドジャースタジアムであれば5階から地下1階までエレベーターか階段を使う。ビジター球場であれば動線の事前チェックは当然。この独特な緊張感はいつまでたっても慣れない。

今、最も注目を集める野球選手の1人である大谷翔平。その動向を連日のように日米メディアが報じるなか、取材の舞台裏では何が起きているのか。

メジャーリーグの取材は、試合後であれば監督が会見で話してから、選手がクラブハウスで話すという流れが一般的だ。

しかし、ドジャースは違うことが多い。試合後はクラブハウスが先に開き、一定の取材が終わると、球団広報の合図でクラブハウスが閉められ会見室で監督の会見がスタートする。通常と真逆なのだ。

そして、大谷、山本由伸、佐々木朗希の日本人選手の取材はまた対応が違う。

日本メディアだけでもカメラマンを合わせると最低15人ほどは常時取材しているため、この3選手だけは日米メディア合同の「囲み取材」が、球団広報によってクラブハウス前に設置される青色のスポンサーボードの前で試合直後に始まる。

二刀流で多忙を極める大谷はさらに例外だ。

取材対応は毎日行われるわけではなく、クラブハウスで単独で話しかけることも挨拶以外は原則、禁じられている。メジャーリーグ全体で唯一のケースだ。

打者に専念した昨季は、試合を決める活躍をしたときや、敗戦についてチームを代表して話すときなど、週に1、2度取材に応じる機会が設けられていたが、今年に関しては6月の投手復帰後は基本的に登板時にのみ取材に応じている。

登板した日は、試合後にグラウンドで、試合を中継した放送局、ラジオ局、日本のNHKのいずれかのインタビューを受けるケースが多い。

大谷がグラウンドでインタビューを受けている頃、クラブハウス前のスポンサーボードの前には何重にも人の輪ができる。

大谷が姿を見せると、その人の輪は「海が割れる」ようにさっとなくなり、大谷用の動線が生まれ、「囲み取材」が始まる。

つまり、試合終了を待ってからプレスボックスを出ると、この取材に間に合わない。間に合ったとしても、記者の質問も大谷の回答も聞こえないという状況に陥ってしまうリスクがある。

先攻はアメリカ、後攻は日本、通訳(アイアトン)側は激戦区

基本的に大谷の取材は米メディア、日本メディアの順で行われる。

今季最も多い時間配分は日米3分ずつ。時間がくると球団広報が「ラストワン(最後の質問)」と区切るため、日本メディアが3人しか質問できないことも多々ある。

この「囲み取材」では、私は取材対象者である大谷の正面ではなく、大谷の左横や右横に陣取るようにしている。

大谷の通訳を務めるウィル・アイアトンや放送局のリポーター、キアステン・ワトソンのいずれかが左右に立って大谷を挟んでいるケースが多く、特にアイアトン通訳の側はその声をレコーダーで拾おうとする米メディアで混み合っている。

ただ、日本メディアの取材が始まると米メディアはすぐに捌(は)けるため、一気に最前列を確保することができるという流れだ。

大谷の声は決して大きくない。直接、言葉を聞き、質問するためには、最前列の確保こそが重要となる。

通常、米メディアの取材時は日本メディアは距離を取って聞かないか、聞こえてもメモを取らないのが記者間のマナーとされるが、メジャー移籍後、取材機会が限られる大谷に関しては聞き耳を立てることが暗黙の了解とされている。

米メディアも日本メディアの取材を聞くことはできるが、日本語だけのやりとりのため、あとで内容を確認されることはあっても、日本語が分かる米メディア以外はその場にとどまり続けることはない。

米メディアにとって不平等な状況だが、現状はその形となっている。

大前提として、大谷が積極的に取材に応じたいタイプではないことは、読者にも何となく想像がつくかもしれない。

それは大谷自身がもともと、シャイな性格ということもあるだろうが、最大の理由は、高校時代から衆目にさらされているからではないだろうか。

警戒心が人一倍強く、既に日本ハム時代からメディアと雑談することは徐々に少なくなり、メジャー移籍後はほぼないと言っていいだろう。

記者の仕事は、その日の取材に必要な質問を投げかけることであり、取材対象者がどんな話題を好むかは基本的には考慮しないが、通常、選手を何度も取材をしていると、質問内容や聞き方の好き嫌いが徐々に分かってくるものだ。

ただ、大谷に関しては法則性がなく、心情が読みづらいのは間違いない。

例えば、サヨナラ満塁弾を打った試合があったとしよう。

その打席の「アプローチやスイング軌道」を具体的に聞くべきか、それとも「あの打席を振り返ってどうでしたか?」などとフワッと投げかけて反応をうかがうか。

もしくは、「打席ではどんなことを考えていましたか? 緊張しましたか? それとも自然体でしたか?」など、こちらから2択のような形で例を出すか。

表情や口調を見ながら即座に聞き方を考えなければならないが、はっきりとした正解はない。

バットと同様、芯に当たる質問だけが、本音と実感を引き出す

newsweekjp20251001114520.jpg

7月15日、オールスター戦直前のレッドカーペットショーに真美子夫人と登場 MATT DIRKSEN/GETTY IMAGES

直近で私が犯したミスを紹介したい。

◇ ◇ ◇

記事の続きはメディアプラットフォーム「note」のニューズウィーク日本版公式アカウントで公開しています。

【note限定公開記事】「テレビには映らない」大谷翔平----番記者だけが知る素顔と現場


ニューズウィーク日本版「note」公式アカウント開設のお知らせ

公式サイトで日々公開している無料記事とは異なり、noteでは定期購読会員向けにより選び抜いた国際記事を安定して、継続的に届けていく仕組みを整えています。翻訳記事についても、速報性よりも「読んで深く理解できること」に重きを置いたラインナップを選定。一人でも多くの方に、時間をかけて読む価値のある国際情報を、信頼できる形でお届けしたいと考えています。


ニューズウィーク日本版 ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月24号(2月17日発売)は「ウクライナ戦争4年 苦境のロシア」特集。帰還兵の暴力、止まらないインフレ。国民は疲弊し、プーチンの足元も揺らぐ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独VW、28年末までにコスト20%削減を計画=独誌

ワールド

英首相、国防費増額の加速必要 3%目標前倒し検討と

ワールド

ロシア、和平協議で領土問題含む主要議題協議へ=大統

ワールド

ロシア、ナワリヌイ氏毒殺改めて否定 欧州主張「虚偽
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中