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自民新総裁に高市氏:識者はこうみる

2025年10月04日(土)16時20分

 10月4日、自民党の総裁選挙は午後に投開票が行われ、決選投票の結果、高市早苗前経済安保担当相(写真)が小泉進次郎農林水産相を破り、第29代総裁に選出された。9月19日、東京で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 4日 ロイター] - 自民党の総裁選挙は4日午後に投開票が行われ、決選投票の結果、高市早苗前経済安保担当相が小泉進次郎農林水産相を破り、第29代総裁に選出された。

市場関係者に見方を聞いた。

◎外交はタカ派色抑えて現実路線か

<アジアグループ バイスプレジデント 林由佳氏>

高市早苗新総裁は中国、韓国への姿勢がタカ派的で、歴史問題や靖国神社参拝を巡る見解でも緊張を招く危惧はある。しかし、実際には現実路線で控えめに政策を進める可能性が高いとみている。自民党は厳しい立場に立たされており、アジアへの強硬姿勢が原因で分裂するようなことは避けたいだろうし、自民党の長老らも避けて欲しいと思っているだろう。

トランプ米大統領と個人的な関係を築けるかどうかは、予想しても 結果はよくわからない。石破茂現首相のときも、あまり外交経験がなく、トランプ大統領とうまくいかないと懸念されたが、蓋を開けてみるとトランプ大統領は石破さんのことを気に入ったようだった。石破首相はそれなりに関係を作れたと思う。

今回選出される首相は、トランプ大統領が来日すると言われている10月下旬までに準備期間が2週間しかない。時間がとても短く、難しい状況だと思う。

◎ポジティブサプライズ、ショートカバー誘発なら日経4万7000円も

<りそなホールディングス ストラテジスト 武居大暉氏>

株価にはポジティブサプライズと言えるだろう。短期的には日本株は上昇で反応しそうだ。事前に海外の賭けサイトなどでは、小泉進次郎農相が優勢との見方になっていた。

このところ日経平均は高値圏で推移しており、空売り比率が上昇し、信用売り残もたまってきている。ショートカバーが誘発されれば、上昇に勢いがついて4万7000円も視野に入るのではないか。

政策面では経済成長を強く打ち出しており、半導体やAI(人工知能)、宇宙関連のほか、防衛力強化、国土強靭化などが恩恵を受けそうだ。日米関税合意後、内需株から外需株への資金シフトがみられたが、再び内需にも投資妙味が出てくるのではないか。

自民党初の女性総裁ということは、投資家に変化を強く意識させる可能性がある。海外勢が構造改革を期待して現物で買ってくるようなら、中長期の緩やかな上昇継続が見込めそうだ。一方、短期筋が中心の先物主導の上昇となる場合、逃げ足も速いため注意したい。

野党との連携では、距離感の近い国民民主党に接近するとみられる。短期的に株式市場では成長ストーリーに基づく株高が意識されるだろうが、財政規律は緩みやすそうでもある。相場が落ち着いてくると株価の割高感に目が向きかねず、長期金利の動向にも目配りが必要になる。

◎10月利上げ難しい、女性首相は海外から評価も

<野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏>

高市早苗氏は金融政策では大きな方向性は政府が決めるとの従来のリフレ派の主張で、今後日銀の政策運営に口出しをする可能性がある。市場が6割程度織り込んでいる10月の利上げも、日銀としては失敗した場合に政治介入を招く可能性があるため、遅らせるだろう。もっとも米国経済が弱くならない限り、日銀の利上げ方針そのものを高市政権が止めることはないと思う。

高市氏は5人の自民党総裁候補のなかでもっとも拡張的な財政政策を主張してきたため、金融市場では金利上昇、円安、株高をまねく可能性がある。しかし自民党は衆参両院で少数与党なので、政策実現には野党の協力が必要。このため、高市氏の政策の毒は実現の過程で薄まると思う。

高市総裁のもと少数与党である自民が連立を拡大するには、政策的に近いのは参政党だ。しかし参政党との連立は衆院での多数派工作にならないため、現実的には国民民主党がもっとも近いパートナーではないかと推察する。

日本初の女性首相が誕生することは欧米を中心に評価されると思う。一方タカ派的な外交姿勢はアジア諸国の警戒を招きそうだ。

外交・安全保障面で明確な政策を示している高市氏だが、閣僚としての実務経験不足には不安がある。このため、今月来日するトランプ米大統領との相性もやや不安だ。日本の防衛力増強については波長が合うだろうが、米国の言うなりにならない姿勢を表に出すと対立を招く可能性もあると思う。

◎株式市場は好感、利上げはゆっくりになる可能性

<明治安田総合研究所 エコノミスト 前田和孝氏>

5人の自民総裁選候補者の中では、高市早苗氏が石破茂首相からの変化が最も大きい。その意味で、高市氏の財政拡張路線を株式市場はまずは好感するのではないか。

一方で総裁選中は、急進的な提案はかなり抑制しており、消費減税の提案も取り下げていた。今後、野党と組んで、こうした提案を再び出してくれば、金利上昇、円安で物価高につながる可能性があり、国民の信頼回復にはつながらないのではないか。高市氏の政権運営自体に対しては懐疑的にみている。

日銀の金融政策については、利上げには前向きではないため、日銀としては利上げはやりづらくなる。利上げ自体は止めることはないとしても、慎重、ゆっくりになる可能性はある。物価次第ではあるが、年明けになる可能性は十分にある。

◎女性首相に高評価、岩盤保守層取り戻しに期待

<政治評論家 田村重信氏(元自民幹部職員)>

高市早苗氏勝利には驚いたが、党員票で圧倒的な成果を出したことが議員投票に影響を与えたのではないかとみている。麻生太郎氏(自民最高顧問)が高市氏支持に回ったのも大きい。麻生氏は林氏を評価しておらず、小泉氏のサポーターである菅義偉元首相も苦手で、高市氏を推したのだろう。

日本として初の女性首相誕生は非常に喜ばしいことで、国際的にも評価されるだろう。また昨年来の衆参両院の選挙で自民党が失った岩盤保守層の支持を高市氏は取り戻してくれると期待できる。

トランプ米大統領も女性首相には強く出てくることはないと期待する。米国の対中戦略上、日本は重要なパートナーであることには変わりがないので、高市政権とトランプ大統領の関係も良好だろう。

ロイター
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