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アングル:カタール攻撃再び、仲介外交はビジネス環境に影落とすか

2025年09月11日(木)13時09分

 9月10日、イスラエルがカタールの首都ドーハでイスラム組織ハマス幹部を標的に空爆した。写真はドーハの攻撃現場付近で10日撮影(2025年 ロイター/Ibraheem Abu Mustafa)

Andrew Mills Rachna Uppal Yousef Saba

[ドーハ 10日 ロイター] - イスラエルがカタールの首都ドーハでイスラム組織ハマス幹部を標的に空爆した。カタールでは6月、当地にある米軍基地に対するイランのミサイル攻撃があったばかりだ。地域の経済拠点としての発展と仲介国としての外交的地位の強化の両立を目指すカタールにとって、一連の攻撃により安定したビジネス拠点としてのイメージが揺るぎかねない事態となっている。

ガザ戦争の仲介役として外交的な役割を果たそうとするカタールは、既により広範な中東紛争に巻き込まれている。イランは6月、米国のイラン核施設に対する空爆の報復としてカタールにあるアルウデイド米軍基地を攻撃し、発射されたミサイルの大半がドーハ上空で迎撃された。9日にはイスラエルがハマスの政治指導部を標的として空爆し、カタールは再び攻撃対象となった。

カリジ・エコノミクスのディレクターでグローバルソース・パートナーズの湾岸アナリストであるジャスティン・アレクサンダー氏は「カタールは数カ月の間にイランとイスラエルの両方から攻撃されたという特異な立場にある」と述べた。

「イランによる攻撃の影響はほとんど目に見えなかったが、その攻撃が繰り返されるようになればリスク認識は変化するかもしれない」という。

ドーハ駐在の西側大手企業の幹部は匿名を条件にロイターに対し、自社がまだ状況を評価している最中だが、空爆のあった翌日はビジネスがまるで何ごともなかったかのように通常に戻ったと語った。

6月のイランの攻撃は事前に予告されており、カタールは防御準備を整える十分な時間があり、死傷者はなかった。

しかしイスラエルの攻撃はドーハを不意に襲い、カタール治安部隊の1人とハマスのメンバー5人を含む少なくとも7人が死亡した。

カタールに暮らす約300万人の大多数は、世界有数の富裕国でのビジネス機会を求めて世界各地から集まった外国人居住者た。

サッカーの2022年ワールドカップ(W杯)の開催地となったカタールは、光り輝く高層ビル群や新たに整備された10車線の高速道路、未来的な姿の地下鉄を誇っている。しかし、カタールは湾岸諸国で化石燃料に対する依存度が最も高い国の一つであり、経済の多様化の面でアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアに後れを取っている。政府は経済的な優先課題を改めて設けることで、こうした状況を変えようと模索している。

カタールは長年、同盟国である米国で重要なビジネス上の利害を保有してきた。

国営のカタールエナジー(QE)はイランと共有する巨大規模の「ノースフィールド」で液化天然ガス(LNG)生産の野心的な拡張計画を進めている。米石油メジャーのエクソンモービルやコノコフィリップスが主要な提携企業として事業に参加する。この事業が完成すればカタールのLNG生産量はほぼ倍増する見込みだ。

QEとエクソンモービルが共同出資する「ゴールデンパス」は米テキサス州サビーンパスで大規模なLNG輸出施設を建設中で、今年後半に輸出開始を予定している。

カタール投資庁(QIA)はトランプ米大統領の湾岸歴訪中、今後10年間で米国に5000億ドルを投資すると表明した。トランプ氏はこの訪問中に署名された防衛関連の購入契約額が420億ドルに上ったと述べた。

カタール航空はまた、GEエアロスペース製のエンジンを搭載したボーイング機160機を契約額960億ドルで発注した。これはボーイングの大型機として過去最大の受注契約だ。

アナリストたちは、こうした経済関係が注視されており、状況が一段と不安定化すれば新規投資が疑問視される可能性があると指摘する。

英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のニール・クィリアム准研究員は「攻撃がさらに続けば、カタールと米国の企業はリスクを再評価し、適切なリスク緩和策を取らざるを得なくなるだろう」と述べた。

<ボイコットの教訓>

カタールは2017年に始まり3年以上続いた湾岸諸国との断交危機を莫大な原油と天然ガスがもたらす富によって乗り切った。サウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、エジプトはカタールがテロ組織を支援していると非難し、交通や物流を遮断してカタール経済を締め付けた。カタールはこうした嫌疑を否定した。

カタールは当時、禁輸措置に対抗して国内の酪農業を立ち上げるために飛行機で乳牛を運び込むなど巨額の資金を費やした。

そのような極端な対策は現時点で必要とされないように思われる。

金融市場はイスラエルの空爆を無視したかのように見え、カタール国債や債務不履行リスクを保証する投資手段のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)にネガティブな反応がなかった。

湾岸諸国の市場が動揺していないその他の兆候として、サウジアラムコは10日にドル建てイスラム債の売り出しを予定通り進めており、ロイターは30億―40億ドルを調達する可能性があると報じた。

カタールのドーハ銀行は9日、イスラエルの空爆直後にもかかわらず債券発行で5億ドルを調達した。

ロイター
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