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アングル:超長期金利、首相退陣でも急上昇せず 「高市リスク」は杞憂か

2025年09月11日(木)16時51分

 9月11日、円債市場では、石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明を受けて警戒された超長期金利の急上昇はみられず、安堵する声が聞かれる。写真は円紙幣と日本国旗のイメージ。2017年6月撮影(2025年 ロイター/Thomas White)

Tomo Uetake

[東京 11日 ロイター] - 円債市場では、石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明を受けて警戒された超長期金利の急上昇はみられず、安堵する声が聞かれる。市場で財政拡張リスクの織り込みが進んでいたほか、高市早苗前経済安全保障相が総裁選で勝っても、高圧経済を目指す政策はとりにくいとの見方が背景にある。ただ、需給面では不安定な状態が続いており、目先は超長期金利に上昇圧力がかかりやすいとの予想も根強い。

<去年ほど高くない「高市リスク」>

週初の円債市場では財政規律派とされる石破氏の退陣で財政規律が緩むとの連想から、超長期ゾーン主導で金利が急上昇するとの警戒感が強まった。しかし、30年金利は今月3日につけた過去最高水準の3.285%を更新するには至らず、11日時点では3.215%と退陣表明前の水準も下回っている。

アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎債券ストラテジストは「石破首相が緊急会見を開いて辞意を表明した翌朝(8日)は超長期債が大きく売られるのではないかと身構えていた」という。

ただ金利は警戒したほど上がらず、木村氏は、国内投資家の間では正式な辞意表明前から、いずれ石破氏の退陣は避けられないとの見方が広がっており、既に一定の財政拡張リスクを織り込んでイールドカーブがスティープ化していたとみる。

8日には、フランスで内閣信任投票が否決され、海外金利上昇と連動する形で国内の超長期金利に上昇圧力がかかる可能性も懸念されたが、それがいったん杞憂に終わったことも、超長期金利の意外な落ち着きに寄与したという。

JPモルガン証券の山脇貴史債券調査部長は「市場では高市前経済安保相が首相になった場合には財政拡張を通じた高圧経済が目指され、それがカーブのスティープ化バイアスにつながるとの見方が多い」と指摘する一方で、現時点で総裁選を絡めて超長期金利が大幅上昇するのは行き過ぎだろうと話す。

高市氏が自民党総裁となるには、党内の幅広い協力を得るために自分のカラーをある程度抑える必要があるとみられ、「高市氏が総裁選で勝利する確率」と「首相になった場合に円債市場に大きな影響を与える財政政策となる確率」は、現時点ではそれほど高くはないとの考えが背景にある。

高市氏が首相になる可能性について、住友生命保険ALM証券運用部の大原悟司証券運用室長は、それ自体は「それなりにある」とみている。ただ「ベセント財務長官など米国側からインフレ抑制や日銀の利上げを促すような発言が出るなか、高市氏がそれらを無視した政策運営を行うかは疑問で、高市リスクは1年前に言われていたほどではない」との見方も長期金利の落ち着きにつながっていると分析する。

<根強い先高観>

とはいえ、先行きについては依然、警戒モードを崩さない市場関係者が多い。

JPモルガンの山脇氏は「総裁選期間中は高市氏の優勢度合いが金利カーブに影響する」とみている。選挙戦で高市氏が優勢との報道が流れれば円債市場ではカーブにスティープ化バイアス、劣勢との報道が流れればフラット化バイアスが強まると話す。

生保会社の購入ニーズが低下した中で発行過多となっている需給問題もあり、財務省から流動性供給の大幅減額や買入消却(バイバック)の実施といった対応があるまでは、超長期金利には上昇圧力がかかりやすいと予想している。

アクサの木村氏は「マーケットが高市リスクを過小評価している可能性」を警戒する。トランプ氏が昨年11月の大統領選挙で再選を果たした際、市場には「実際に大統領に就任すれば、そこまで過激な政策はしないだろう」と楽観視する向きがあったが、結局4月初旬に突然、相互関税を発表したと指摘。「高市氏に関しても似たようなことが起きるリスクに備えるべきだろう」と警鐘を鳴らす。

別の要因もある。住友生命の大原氏は9月は時期的に「期末の債券売り」圧力が強まりやすいと指摘する。「中間期末を見据えて、足元の金利上昇で含み損となっている超長期国債と株高で含み益が出ている日本株を合わせ切りしようとする生命保険会社も中にはあるだろう。9月下旬まではそうした動きが出やすいタイミング」だという。

超長期金利は足元で落ち着いた動きとなっているが、30年金利がこの先、過去最高水準を再び試すシナリオも、市場参加者は排除していない。

(植竹知子 編集:平田紀之、石田仁志)

ロイター
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