アングル:日銀、新米価格の動向注視 年内利上げ判断の1つに

日銀内で2025年産の新米価格への注目が高まりつつある。写真は食品売り場に並ぶ備蓄米。5月31日、東京で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)
Takahiko Wada
[東京 25日 ロイター] - 日銀内で2025年産の新米価格への注目が高まりつつある。新米価格の高止まりは、消費者物価指数(除く生鮮食料、コアCPI)の前年比伸び率の縮小を想定より鈍くする方向に働くほか、家計の予想物価上昇率に波及する可能性が高まるためだ。日銀は追加利上げの判断に際し、米国の関税の影響が経済をどの程度下押しするか注視する姿勢だが、物価動向を見通す上で、新米価格も注目ポイントの1つに浮上している。
<変質したコメの価格構造>
コアCPIの前年比伸び率は7月まで8カ月連続で3%台となった。高水準の伸び率をけん引してきたのがコメ価格だ。こうした中、秋の新米シーズンに先駆けて収穫され、店頭に並んだ「早場米」の価格が昨年より大幅に高いとの報道が相次いでいる。
流通経済研究所の折笠俊輔・常務理事は25年産の新米価格について、5キロで4200―4500円程度と予想する。24年産の新米が当初3000円程度だったのに比べて4―5割高い水準だ。各地の猛暑と水不足などがその背景だという。
昨年来のコメ価格の上昇には天候以外の要因もある。生産者がこれまで転嫁できていなかった肥料価格や人件費、物流コストの上昇分が含まれている。流通経済研の折笠氏は、生産コスト上昇分を踏まえた適正価格を5キロ3000―3500円程度とみており、需給が引き締まればこの水準が事実上の下限になる可能性もある。
日銀は現時点で、コメ価格がどんどん上昇していかない限り、前年の価格高騰が急ピッチだった反動でコメ価格の前年比伸び率は縮小を続けるとみている。7月全国CPIでコメ類は前年比90.7%上昇と、2カ月連続で伸び率が縮小した。
ただ、コメ価格の高止まりは、人々の予想物価上昇率に影響を及ぼすリスクがあり、作柄に加え、新潟県や北海道、東北地方といったコメの生産量が多い地域の新米が店頭に並ぶ9月ごろまで、新米価格の動向を見ていく必要があるとの声が出ている。
<コメ主導の物価高が招くリスク>
7月の金融政策決定会合では、コメをはじめとする食料品やガソリンなどは個人が価格水準を意識しやすく「値上がりを実感しやすい」として「予想物価上昇率を押し上げやすい」との意見が出ていた。その一方で、コメなど食料品の価格高騰の長期化が消費を冷やすリスクを警戒する向きもある。
日銀では、この2つはまだリスクの範囲であり、注視が必要との声が出ている。
日銀では、コメ価格にみられる一連のコスト転嫁を値上げの積極化の一環と捉えており、価格に占めるコスト転嫁の部分が大きくなってくれば、基調的な物価に関わるとして、金融政策で対応すべきとの見方がある。
日銀はコメに限らず、食品メーカーを中心に積極化している値上げ姿勢がさらに強まったり、広がりが出てこないかも注視している。コメなどが主導する物価高を受けて来年度の賃上げが実現した場合、賃上げの継続がさらなる物価高に波及する可能性もある。
日銀内ではすでに、環境が整えば年内にも利上げが可能との声が出ている。向こう数カ月、内外の経済・物価動向にまつわる情報の集積を待つ時間帯に入るなかで、利上げの是非を判断する際には、関税の影響のみならず新米の価格動向も重要になるという。