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アングル:米医療団体・州が独自のワクチン勧告へ、ケネディ氏政策に懸念

2025年07月25日(金)18時36分

 7月24日、ワクチン懐疑派として知られるケネディ米厚生長官(写真)が連邦政府のワクチン政策を自ら望む方向に修正しつつある。ミラノで2021年11月撮影(2025年 ロイター/Flavio Lo Scalzo)

Julie Steenhuysen

[シカゴ 24日 ロイター] - ワクチン懐疑派として知られるケネディ米厚生長官が連邦政府のワクチン政策を自ら望む方向に修正しつつある。これを受け、秋の呼吸器疾患流行期に多くの子どもや妊婦が予防接種を受けられなくなる事態を懸念した幾つかの医療団体や州が、ワクチンに関する独自の勧告の策定に動いている。

ただ専門家によると、連邦政府が定めた基準を置き換える動きは、医療従事者や患者の混乱を増大させる恐れがある。

食品医薬品局(FDA)が承認したワクチンは、疾病対策センター(CDC)の外部専門家でつくる予防接種実施諮問委員会(ACIP)が接種対象者や接種間隔について基準を勧告している。各州はこの勧告に基づいて関連法を多数制定しているが、独自基準はそれと矛盾してしまう可能性がある。

ケネディ氏は先月、以前に解任したACIP委員全17人の後任としてワクチン反対派を含む8人を新たな委員に任命。5月には健康な子どもと妊婦に対するCDCの新型コロナウイルスワクチンの接種推奨を、十分な根拠がないとの理由でACIPの意見を聞かずに一存で取りやめた。

<黙認できず>

米国小児科学会(AAP)や米国感染症学会(IDSA)といった有力な医療団体は、こうしたケネディ氏の姿勢が不当だとして訴訟を起こしている。

AAPは、新型コロナウイルスやインフルエンザ、RSウイルスが引き起こす呼吸器疾患が増える秋に、確かな証拠に基づくワクチン接種の指針を打ち出す意向だ。スー・クレシー会長はロイターに「われわれが頼りにしている仕組みが意図的に破壊されているのを黙認できないし、するつもりはない」と話した。

米国産科婦人科学会(ACOG)も、8月ないし9月の公表に向けてワクチン接種の指針を策定中。広報担当者は、ACOGとしては重篤な症状や合併症のリスクが高い妊婦に対する新型コロナワクチン接種を引き続き推奨し、ケネディ氏が任命したACIPが出した、チメロサール(水銀含有の保存料)を含むインフルエンザワクチン接種反対勧告の妥当性を否定した。これらのワクチンの安全は証明されているが、ワクチン懐疑派は長年にわたってチメロサールと自閉症に関連があると主張してきた。

ACOGなどと公衆衛生・感染症専門家でつくる「ワクチン・インテグリティー・プロジェクト」が協力し、認可済みワクチン使用に関するそれぞれの独自指針についての科学的な証拠検証作業に乗り出している。

ミネソタ大学感染症研究政策センターのマイケル・オスターホルム所長は「われわれが試みているのは(医療)界の使用に耐える、偏見を伴わず権威のあるデータ検証の結果を新たに投入することだ」と述べた。オスターホルム氏は、新型コロナに関するバイデン前大統領の顧問を務めていた。

<州の対応>

非営利の医療政策研究機関KFFのシニアアナリスト、ジェン・ケーツ氏は、さまざまな団体から州や連邦レベルで勧告が出されれば、患者は誰を信じてよいか分からなくなると懸念する。

さらに1964年に創設されたACIPの勧告はそれ以降ずっと米国全土の医療保険適用や低所得世帯の子ども向けワクチン供与、学校の予防接種、薬剤師のワクチン管理などにかかわる法令の土台になってきた。一部の州ではワクチン購入方針とも連動している。

ある分析では、全米50州中49州と首都ワシントン、自治領の600近くに上る法規制が参照しているのはACIPの勧告だと判明した。

こうした中で複数の州は、既に事態打開へ動き始めた。

ウィスコンシン州は妊婦と生後6カ月以上経過した子どもに新型コロナワクチンの接種を推奨する方針は変わらず、低所得者向け公的医療保険メディケイドで高齢者の接種費用は引き続きカバーされるとしている。

民主党が知事を務めるカリフォルニア、ワシントン、オレゴンの3州も、ケネディ氏が先にACIP委員全員を解任したことを非難した上で、有力医療団体の見解に沿って妊婦と生後6カ月以上の子どもに対する新型コロナワクチン接種を推奨し続けると表明した。

法令の根拠をACIPの勧告以外に広げる動きも見られる。コロラド州は法改正を通じて、学校の予防接種方針を決める際にはACIPだけでなく主要学会の勧告も参照する形にしている。

マサチューセッツ州議会は、子どもの予防接種間隔決定権限をACIPの勧告の代わりに州の公衆衛生委員会に委ねるヒーリー知事(民主党)の提案を審議中だ。

前出のオスターホルム氏によると、医療保険会社はワクチン・インテグリティー・プロジェクトに対して、保険適用のための統一的なワクチン接種勧告を要望したもようで、各種団体間のすり合わせが求められている。

オスターホルム氏は「関係者が力を合わせて最良の内容を生み出す必要がある」と強調しつつも、このままACIPないし厚生省の勧告を唯一の根拠として放置しておいてはならないと訴えた。

ロイター
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