ニュース速報
ビジネス

アングル:低迷ヘルスケア株、浮上の鍵は米薬価政策巡る不透明感の解消

2025年07月26日(土)08時10分

 7月23日、医薬品などヘルスケアセクターは株価が世界的に数十年来で最も割安な水準にある。ニューヨーク証券取引所で7月撮影(2025年 ロイター/Jeenah Moon)

Danilo Masoni

[ミラノ 23日 ロイター] - 医薬品などヘルスケアセクターは株価が世界的に数十年来で最も割安な水準にある。同分野に投資するファンドへの資金流入は増えつつあるが、株価はなお低迷しており、トランプ米大統領が打ち出した薬価引き下げ策を巡る不透明感が浮き彫りになっている。

製薬会社は主要な米市場で「最恵国待遇薬価」ルールの復活や医薬品輸入に対する最大200%の関税導入の可能性などを巡る懸念から、業績見通しが不透明になっている。新型コロナウイルスのパンデミック期間には株式に投資資金が流入したが、近年は投資家が大型ハイテク株に軸足を移し、医薬品株は割安であるにもかかわらず人気がない。

LSEGデータストリームのデータによると、MSCIワールドヘルスケア指数構成銘柄の予想利益に基づく株価収益率(PER)は15.9倍と2009年以来16年ぶりの低水準で、長期平均を11%、MSCI世界株価を20%それぞれ下回っている。

JPモルガン・アセット・マネジメント(ニューヨーク)のグローバル市場ストラテジスト、ステファニー・アリアガ氏はヘルスケア株について「われわれは慎重な楽観主義から慎重な悲観主義へと見方を変えた」と説明。その上で「同セクターのバリュエーションがさらに低下したのには理由がある」として、米政策を巡るリスクの高まりを指摘した。

一方で高齢化社会、RNAを基盤とした治療法、減量や糖尿病治療薬における革新など、長期的なプラスの要因に目を向け始めている投資家もいる。

<ハルマゲドンシナリオ>

スイスの資産運用会社LFG+ZESTのアルベルト・コンカ最高投資責任者(CIO)は最近、製薬、バイオテクノロジー、医療機器分野への投資を拡大している。強力なキャッシュフロー利回りや、米国の利下げが金利に敏感なこうしたセクターを追い風になると考えたためだ。

「これらの銘柄は健全な成長性とディフェンシブ特性を備えた高品質な企業でありながら、まるで『ハルマゲドンシナリオ』に突入するかのような価格で取引されている。しかし私はそのようなことが起きる可能性は低いと見ている」と述べた。

英国拠点のM&Gインベストメンツも、最新の資産配分報告からヘルスケア関連株を選別的に買い増していることが分かる。

ファンド調査会社EPFRのデータによると、ヘルスケアファンドは2024年以降、資金の純流入が続き、22年終盤から23年にかけての純流出から資金動向が大きく逆転した。ただし、今年は年初来の流入額が72億ドルと前年比で41%減っている。

技術革新の加速、開発パイプラインの成熟、M&A(企業の合併・買収)の兆候も見られるが、それでも株価は動いていない。

こうした状況が「買いのチャンス」なのか、それとも「バリュートラップ(割安に見えるが実際にはそうでない銘柄)」なのかは、米政府政策を巡る不透明感がどのように、そしていつ解消されるか次第だと、投資家たちは指摘している。

<きっかけが必要>

これまでヘルスケア株は、そのディフェンシブな特性と安定した利益から、世界的な株価に対して控えめながらもプレミアムの乗った水準で取引されてきた。しかし米政府の政治的圧力と投資家によるビッグテック株偏重を受けてこうした構図は崩れてしまった。

過去3年間に米S&Pヘルスケア株指数はS&P総合500種指数に対して60ポイント余りもアンダーパフォームし、米金融市場で最も成績が悪いセクターとなっている。23年にS&P総合500種と同等だったバリュエーションは一段と低下し、今では過去最大級の27%のディスカウントだ。

ボストンのフィデリティ・インベストメンツでヘルスケアセクターの責任者兼ポートフォリオマネージャー、エディ・ユン氏は「市場は不確実性を嫌う。その結果がバリュエーションに表れている。割安というのは買いの理由にはならない。何かしらのきっかけが必要だ」と述べた。

今のところ、そうしたきっかけはまだ見えていないが、ユン氏は年末までには霧がある程度晴れ、それが業界全体のM&Aを後押しする可能性があると予想。小規模で革新的な企業が黒字化し始めていることに注目し、米バイオ企業のアルナイラムや医療機器のペナンブラといった銘柄を保有している。

LFG+ZESTのコンカ氏も、米国では医薬品のアボットやアッヴィ、医療機器のエドワーズライフサイエンス、欧州ではサノフィやレコルダティなどを選好。利下げは重要なきっかけになる可能性があるとの見立てだ。

<危機を脱したか>

欧州のヘルスケアセクター株は米製薬株よりもさらに割安で、予想利益に基づくPERが14.3倍にとどまっている。ノボノルディスクの株価は、肥満治療薬分野での競争激化への懸念や、米関税を受けた生産の米国移転といった要因もあって過去1年で55%下落し、バリュエーション全体を押し下げている。

フランスのCICマーケット・ソリューションズのヘルスケアアナリスト、アルノー・カダール氏は「ヘルスケアセクターは(こうした状況に)適応するだろう」と楽観論を唱えつつ、こうした動きは収益の再構成や組織の変革という代償を伴うと付け加えた。

JPモルガンのアリアガ氏は「ヘルスケアセクターは多くの痛みに耐えてきた。その痛みが完全に終わったとは言えないが、極端な資金流出を考慮すれば、最悪期はおそらく過ぎたのではないか」と期待をにじませた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

上海でAI会議開幕、中国の李首相は世界的な協力組織

ビジネス

NASA、職員の20%が退職へ=広報

ワールド

タイとカンボジアの衝突3日目に、互いに停戦と交渉開

ワールド

台湾でリコール投票始まる、野党議員24人の解職に是
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 3
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や流域住民への影響は?下流国との外交問題必至
  • 4
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 5
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 6
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    機密だらけ...イラン攻撃で注目、米軍「B-2ステルス…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「電力消費量」が多い国はどこ?
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 3
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 4
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 5
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 8
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 9
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 10
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中