マクロスコープ:身構える霞が関、「非常によくない方向」 参政・国民民主の躍進で

7月22日、参院選で参政党や国民民主党に躍進をもたらした有権者の「熱」に、霞が関が身構えている。写真は日本の国旗。2016年2月、都内で撮影(2025年 ロイター/Toru Hanai)
Tamiyuki Kihara
[東京 22日 ロイター] - 参院選で参政党や国民民主党に躍進をもたらした有権者の「熱」に、霞が関が身構えている。積極財政をうたう両党の発言力が強化されることへの警戒感があるからだ。複数の政府関係者は、財政再建への道のりがより険しくなることへの懸念を口にした。
「非常によくない方向に向かっているんじゃないか」。参院選後初めての平日となった22日、財務省幹部はこうつぶやいた。選挙では減税や積極財政を訴えた参政が、「日本人ファースト」を掲げて14議席を獲得。同じく積極財政派の国民民主も改選4から17議席へと大きく積み増した。
自民、公明両党が敗北し、衆参で与党が過半数割れとなったことで、政局は多数派工作のフェーズに移る。参政や国民民主が政権政策に一定の影響力を発揮する可能性が捨てきれない状況だ。
投票結果で特徴的なのは、既存政党に突き付けられた有権者の「ノー」だ。NHKの出口調査分析によると、比例代表の投票先として自民党を挙げた人は、10代、20代、30代でいずれも参政、国民民主の半数程度。40代でようやく3党の割合が拮抗した。公明党も敗北を喫し、本来受け皿となるはずの野党第1党、立憲民主党も議席を増やせなかった。
「財政規律の重要性や、たとえ消費減税をするとしても国債発行に頼らない道を模索するという政党の訴えが現役世代に響かなくなっている」と、ある経済官庁の幹部は選挙結果に頭を抱える。
積極財政派の台頭に対する警戒感は、財務省にも広がっている。前出の幹部は「過度なインフレが健全な社会システムを壊し、深刻な社会不安の要因となったのは歴史が証明するところだ。その流れが始まってしまったのか、とも思える」と話す。
「そもそも日本銀行が金融と物価の『番人』であるのは、過度なインフレに陥ってしまったら国民の力ではそれを止められないからだ」と説明。参院選では与野党ともに近視眼的な主張に終始する候補者が目立ったとし、「政府としても大きな視点で国家像や財政規律の必要性を訴えなければならない」と危機感を隠さない。
政府が喫緊で対応を迫られるのは、8月1日召集とも報じられている臨時国会だ。米国による追加関税や長引く物価高対策のために補正予算の編成が必要になれば、一定の会期が必要になる。勢いを増す野党がガソリン税の旧暫定税率廃止法案などを提出する可能性もある。野党が多数を占める国会が会期を決めることからも、「主導権」はすでに政府、与党から離れているとも言える。
こうした現状に、前出の経済官庁幹部は「旧来型の自公の政策決定プロセスを見直す必要がある」と指摘する。これまで予算編成や税制改正のプロセスを含め、多くの意思決定が与党内でブラックボックス化された結果、有権者の政策への理解が置き去りになっていたとの見方だ。「政権や与党の論理で政策決定を進めるのではなく、今後はより丁寧な国民への説明が必要になる」とこの幹部は話す。
永田町に衝撃を与えた有権者の「熱」は今後も続くのか。キヤノングローバル戦略研究所の上席研究員・峯村健司氏は、「参政党を支持している人たちは、政策というよりは既存政党に対する大きな不満を抱えている」とした上で、これまでも、そうした民意の一時的な受け皿となる政党はあったが、参政党が異なるのは地方組織をしっかりもっている点だ」と指摘している。
(鬼原民幸 編集:橋本浩)