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焦点:トランプ氏にすら過激、ミラー次席補佐官の強硬移民政策

2025年07月14日(月)14時25分

 トランプ政権で不法移民対策を担うスティーブン・ミラー大統領次席補佐官(39、写真)は5月下旬に不法移民を厳しく取り締まる方針を打ち出した。5月30日、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Nathan Howard)

Ted Hesson Jeff Mason Kristina Cooke

[ワシントン 11日 ロイター] - トランプ政権で不法移民対策を担うスティーブン・ミラー大統領次席補佐官(39)は5月下旬に不法移民を厳しく取り締まる方針を打ち出した。ロサンゼルスでは米海兵隊が市内に展開し、覆面をした米移民・関税捜査局(ICE)の職員が裁判所やレストランに出没。十数カ国からの旅行者が入国禁止措置の対象となった。

しかし6月中旬にトランプ大統領が、他の移民当局者らとロサンゼルス入りしていたノーム国土安全保障長官に電話をかけたと、事情を知る元米政府高官3人がロイターに明かした。そのうち1人は、「トランプ氏は『これは標的を絞って実行する』」と言った。その場にいた「全員がそれを聞いた」と証言した。

元高官によると、この電話の後でICEは農場、ホテル、レストラン、食品加工工場への強制捜査を停止した。元高官の1人によると、トランプ氏はその時点まで不法移民摘発がどの程度広がっているかを把握しておらず、「実情を知って政策を撤回した」という。

しかし停止はほんの短期間で終了。ICEは数日後には摘発を再開し、当局者の間では一部で混乱が生じたという。

元高官2人によると、この一件はトランプ政権の移民政策チーム内で不協和音が生じていることを如実に物語っている。同チームは、この一件がなければ一丸となって進んでいるように見えたが、この一件からは、ミラー氏の過激な手法がトランプ氏にとってすら行き過ぎであることがうかがわれるという。

ホワイトハウス高官は、ミラー氏とトランプ氏の間に意見の相違はなく、ミラー氏の移民政策は農場を主な標的としていなかったと説明した。また、ロサンゼルスの一件におけるICEによる摘発停止は政権上層部の承認を得ていなかったと釈明した。

ミラー氏は長らく移民問題に強いこだわりを見せてきた人物だ。現在は移民政策の要としてホワイトハウスの幅広い分野で強い権限を持ち、2017─21年の第一次トランプ政権時代よりもその影響力は増している。ある関係者によると、ホワイトハウスの行政命令はことごとく少数のスタッフグループによる承認が必要で、ミラー氏はその中心メンバーの1人だ。

しかし、移民政策に関してミラー氏は憲法の限界に挑むような実験的な政策を推し進めており、憲法修正第14条で保障された出生地主義にも疑義を抱いていると、元同僚3人は語った。ある共和党関係者は「彼は自分の世界観を100%信じて疑わない」と言い切った。

ミラー氏はトランプ氏の大型の減税・歳出法案を巡ってXに「共和党は何世代にもわたり、米国民に完全で徹底した国境の安全を約束してきた。その約束を果たす時が来た。文明の運命そのものがかかっている」と投稿。法案に盛り込まれた不法移民対策の重要性を訴えた。

ミラー氏に対しては、政治目的で排外主義をあおり、実効性よりも冷酷さに重点を置いた政策を推進していると非難の声も出ている。

半面、ノーム氏など政権関係者らは、ミラー氏はトランプ大統領に忠実で、政権の移民政策の立案において重要な役割を果たしていると評価。ノーム氏はロイターに寄せた声明で「スティーブンの情熱、愛国心、そして粘り強さは、われわれが米国史上最大規模の不法移民の強制送還を実施する上で原動力となっている」と手放しで賞賛した。

<前例のない影響力>

ミラー氏が移民政策で前例のない影響力を握るようになったのは、トランプ氏との長年にわたる緊密な関係に由来すると同僚らは証言した。

ペンス元副大統領の首席補佐官を務めたマーク・ショート氏は「ミラー氏は『トランプ現象』の正に初期の頃からトランプ氏と関わっていた。第一次トランプ政権でずっと忠誠を貫き、今も変わらず忠実だ」と首尾一貫した姿勢を説明した。

一方、ある元政権高官によると、ミラー氏は非常に強引で自己主張が強く、同僚と話す際の調子はテレビ出演時と変わらないという。「彼と話していても自分の意見を挟む余地がほとんどない。他人の意見にあまり関心がない。対話というよりも、一方的に言われ続ける。反論しようとすればすぐに遮られる」と言う。

この元高官によると、国土安全保障省はミラー氏から幹部にあまりにも頻繁に電話がかかるため、ミラー氏専用の対応スタッフを置かざるを得なかったほどだった。このような省庁職員への直接的な働きかけは現政権下でも続いていると、現職員と元職員が証言した。

また、ミラー氏と意見が食い違って解雇され、トランプ氏やその側近から「ブラックリスト」に入れられるのを恐れる雰囲気も、ミラー氏の権限強化に寄与していたと、元当局者2人は語った。

ある関係者によると、ミラー氏は自らのスタッフを編成した上で政権入りし、「初日からすぐに動き出せる状態だった」。米政府機関の人員削減に伴ってNSCでは数十人が解雇されたが、ミラー氏の安全保障チームは影響を受けなかったとの証言もあった。

<排外的な世界観>

民主党はミラー氏を、トランプ政権で最も過酷な政策を推進した中心人物として非難している。

2019年には複数の民主党議員がミラー氏を「極右の白人ナショナリストで、人種差別的かつ排外的な世界観を持つ人物」と非難する声明を発表。現ロサンゼルス市長のカレン・バス氏も声明に名を連ねていた。

トランプ氏による電話とICEによる摘発の一時停止を巡る混乱からほぼ1カ月が経ったが、ミラー氏主導の強硬路線は続いている。

ロリンズ農務長官は8日、米国内で農業に従事している不法移民を強制送還する措置に「恩赦はない」と明言。ロサンゼルスでは、重装備の米軍兵士に護衛された捜査官が市内の公園で捜査活動を行い、そのあからさまな進め方に地元当局者の怒りを買った。

トランプ氏は先週、フロリダ州に新設された移民収容施設の開所式でミラー氏を紹介し、「われわれのスター」と呼んだ。さらにミラー氏やノーム氏も参加して開かれた会議で、ミラー氏ですらノーム氏の仕事ぶりには敬意を表するだろうと発言。「彼(ミラー氏)は誰のことも好きじゃないからな」と述べた。

これに対しミラー氏は、当局の取り締まり権限を強化し、法的手段や外交を通じて強制送還を推進するといった移民政策を進めたトランプ氏について、「あなたの取り組みを間近で見てきたことは人生最大の栄誉のひとつだ。自分がその一端を担えることを誇りに思う」と賛辞を惜しまなかった。

ロイター
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