ニュース速報
ワールド

アングル:イランと停戦のイスラエル、「平和の配当」への期待高まる

2025年07月03日(木)15時11分

イスラエルはイランとの「12日間戦争」で経済が打撃を被った一方で、国民や投資家の間では米国の仲介による停戦によって数十年来の夢である経済的な「和平の配当」がもたらされるのではないかとの期待が高まっている。写真はエルサレム中心部でレストランを経営するツヴィ・マラーさん。7月1日撮影(2025年 ロイター/Ronen Zvulun)

[エルサレム 2日 ロイター] - イスラエルはイランとの「12日間戦争」で経済が打撃を被った一方で、国民や投資家の間では米国の仲介による停戦によって数十年来の夢である経済的な「和平の配当」がもたらされるのではないかとの期待が高まっている。

パレスチナ自治区ガザでは依然として戦闘が続くが、イラン核開発計画の後退、レバノンやシリア、ガザでの親イラン勢力の弱体化がこうした期待を後押しする。トランプ米大統領が、イスラエルがガザでの60日間の停戦に必要な条件に合意したと表明したことで楽観的な見通しが一段と強まった。

イラン戦開始から2日目となる6月15日以降、イスラエルの主要株価指数は2桁の上昇を見せ、過去最高値を更新。通貨シェケルは6月13日以降に8%上昇し、約2年ぶりの高値を付けた。

国債の債務不履行(デフォルト)リスクを織り込むクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は大幅に低下し、8月にも利下げが行われるとの見方が広がっている。CDSの低下は市場がもはやイスラエルが投資適格の信用格付けを失うリスクを織り込んでいないことを意味し、これはガザ戦以前には考えられなかったことだ。

IBIインベストメント・ハウスのギル・ドタン氏は、投資家はイスラエルの近隣諸国との間で新たなチャンスの到来を見込んでいると指摘する。

イスラエル経済に対する楽観的な見方の背景にあるのが、一部のアナリストが中東での地政学的構図の再編とみなしている変化だ。こうした動きは、最終的にシリアなど長年の敵対国との和平合意につながる可能性もあると受け止められている。

中東では米国が仲介する「アブラハム合意」の下、2020年にアラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンがイスラエルとの国交を樹立し、モロッコも続いた。こうした流れをきっかけにイスラエルとの関係正常化に踏み切る国が増えるのではないかとの期待も広まっている。

イスラエル財務省の主席エコノミスト、シュムエル・アブラムゾン氏は「われわれは今、大規模なリスク低減プロセスを目の当たりにしている。国家の存続にとっての脅威だけでなく、経済的・地政学的リスクも取り除かれつつある」と述べた。

<経済への打撃>

イスラエルは短期的には、イランとの戦闘で経済が深刻な打撃を受ける見通しだ。

イスラエル財務省は戦闘に伴う推計80億シェケル(約23億7000万ドル)の経済的損失を理由に、3.6%としている今年の成長率見通しの見直しを進めている。JPモルガンはすでに成長予測を3.2%から2%に下方修正した。労働市場は堅調を保っているが、パレスチナ武装組織ハマスによる2023年10月7日の襲撃で始まったガザでの紛争以来、多くの労働者が予備役として動員され、労働市場はひっ迫している。

対イラン戦で主要産業は混乱。イスラエル中央統計局によると、企業の35%が6月の売上に50%以上の打撃があると予想している。

エルサレム中心部でレストランを経営するツヴィ・マラーさんは、この短期間の戦闘がまるで新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が再来したようだったと表現。23年10月7日以降は観光客が来なくなって経営が苦しく、地元の常連客や自身の追加投資で店を何とか維持しているという。

一方、フィットネスチェーンの最高経営責任者(CEO)であるケレン・シュテヴィ氏によると、対イラン戦争中に74店舗全てを閉鎖したが、戦闘終結後には人々が日常を取り戻そうと来店し、新規入会が急増した。

イスラエル製造業協会のロン・トマー会長によると、イラン戦で企業が広い範囲で閉鎖されたものの、戦争期間中も95%の工場が稼働を維持し、輸出業者は海外顧客への供給を継続した。

イスラエル中央銀行のアディ・ブレンダー調査部長は、今後防衛費が減少する可能性があると指摘。「イランを想定した非常に集中的な防衛支出は、今後数年間はもはや必要ではなくなるだろう」と楽観的な見方を示した。

<経済の回復力>

イスラエル民主主義研究所の上級研究員で元イスラエル中央銀行総裁のカーニット・フルグ氏は「イランとの今回の戦闘の前から、ガザとの長期紛争で示されたイスラエル経済の回復力には良い意味で驚かされていた」と述べた。2025年第1・四半期の成長率は年率換算で3.7%だ。

一方でフルグ氏は、イスラエル経済には生活費の高騰や超正統派ユダヤ人男性の労働参加率の低さといった根深い課題が残っているとして「こうした長期的課題は未解決だ」と指摘した。

ガザでの20カ月にわたる紛争で成長は鈍り、物価は上昇。防衛費などの支出が債務負担の急増をもたらした。しかしイスラエル経済の主力産業であり、国内経済活動の20%を占めるハイテク分野は好調を維持している。スタートアップ・ネイション・セントラルの6月30日の発表によると、国内ハイテク企業の今年上半期の調達額は90億ドル超と、半年としては21年以来で最大だった。

投資会社アワークラウドのジョン・メドヴェドCEOは、人工知能(AI)やサイバーセキュリティなどの分野で外国人投資家の関心が依然として高く、イランの核開発計画が完全に破棄されれば、投資はさらに活発化する可能性があるとの見方を示した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア海軍副司令官が死亡、クルスク州でウクライナの

ワールド

トランプ減税・歳出法案、下院最終採決へ前進 手続き

ワールド

米EU関税問題、早期解決を メルツ独首相が訴え

ワールド

仏航空管制官がスト、旅行シーズンに数百便が欠航
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 10
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中