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アングル:イスラエルと米国によるイラン核施設への攻撃、放射能汚染リスクは

2025年06月23日(月)12時53分

トランプ米大統領は6月21日、イランの核施設3カ所への軍事攻撃により、フォルドゥなど地下深くに埋設された施設を「完全に破壊した」と述べた。13日にイスラエルが攻撃を開始しており、米国はこれに加わった形だ。写真はイラン南部ブシェール原子力発電所の衛星画像。2025年5月撮影。Planet Labs PBC提供写真(2025年 ロイター)

[ロンドン/ドバイ 22日 ロイター] - トランプ米大統領は21日、イランの核施設3カ所への軍事攻撃により、フォルドゥなど地下深くに埋設された施設を「完全に破壊した」と述べた。13日にイスラエルが攻撃を開始しており、米国はこれに加わった形だ。

専門家はイランのウラン濃縮施設への軍事攻撃による汚染リスクは限定的だと指摘する。国際原子力機関(IAEA)は22日、米軍による攻撃後に周辺地域の放射線レベルの上昇は報告されていないと発表した。

<攻撃を受けた核施設は>

米軍はフォルドウ、ナタンズ、イスファハンの各施設を攻撃した。トランプ大統領はイランの主要な核濃縮施設は「完全かつ全面的に消滅した」と主張した。

イスラエルはイランの核爆弾製造の阻止を目的としており、米国もイランの核兵器保有を許さないという立場だ。一方、イランは核兵器開発を否定している。

IAEAはこれまで、ナタンズのウラン濃縮施設、イスファハンのウラン転換施設を含む核複合施設、カラジやテヘランの遠心分離機製造施設に損害があったと報告している。

イスラエルはホンダブ(アラク)も攻撃した。IAEAはイスラエル軍の攻撃により、建設中のホンダブ研究用重水炉と、近隣にある重水製造工場に損害が出たと報告した。

これらの施設はまだ稼働しておらず核物質が存在していなかったため、放射線による影響はなかった。重水炉はプルトニウム抽出に用いられ、プルトニウムも濃縮ウラン同様、核兵器製造に利用可能だ。

<攻撃によるリスク>

米軍の攻撃前にロイターの取材に応じた専門家らは、イスラエルの攻撃による汚染リスクは現時点で限定的だと指摘した。

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のダリヤ・ドルジコワ上級研究員は、核燃料の準備段階にある施設が攻撃された場合、心配されるのは放射能よりも、有害な化学物質の拡散だとの見方を示した。

濃縮施設ではウラン濃縮に必要な六フッ化ウラン(UF6)が問題となる。

ドルジコワ氏は「六フッ化ウランが空気中の水蒸気と反応すると有害な化学物質が生成される」と説明。「風が弱い場合、物質は施設付近にとどまる可能性が高い。強風の場合は遠くまで拡散するが、同時に広範囲に薄まる。地下施設の場合、有害物質の拡散リスクは低い」と述べた。

英レスター大学の市民安全・セキュリティー部門責任者サイモン・ベネット氏は、地下施設は「数千トンのコンクリートや土、岩石に核物質が埋もれているようなもの」であり、攻撃された場合の環境リスクは最低限に留まると話した。

カーネギー国際平和基金の核政策プログラムで共同ディレクターを務めるジェームズ・アクトン氏は「六フッ化ウランは化学的に有毒だが、長距離にわたって移動することはなく、放射線もほとんど出さない」と述べた。濃縮施設への攻撃は「周辺地域に大きな影響を及ぼす可能性は低い」としつつ、イスラエルによる攻撃には反対の立場を示している。

<原子力発電所への懸念>

最大の懸念は、ペルシャ湾岸にあるブシェール原子力発電所への攻撃だ。

19日、イスラエル軍がブシェール原発を攻撃したと発表し湾岸地域に動揺が広がったが、後に発表は誤りだったと訂正された。

イスラエルは核による災害を避けたいとの立場だ。

マンチェスター大学のリチャード・ウェイクフォード疫学名誉教授は、濃縮施設への攻撃であれば汚染は周辺地域への「主に有害化学物質の問題で済む」が、大型の原子力発電所が深刻な損傷を受けた場合は「話は別」と述べた。

同教授は、放射性物質が蒸発して空気中に広がったり、海に流れ出したりする可能性があると説明している。

カーネギー国際平和基金のアクトン氏は、ブシェールへの攻撃は「重大な放射能災害を引き起こす可能性がある」と述べた。

<湾岸諸国の最大の懸念は>

湾岸諸国にとってブシェール原発への攻撃による深刻な影響は、海域の汚染によって淡水化の水源が危険にさらされることだ。

関係者によると、中東6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)は今回の攻撃後、環境汚染の兆候を監視するために警戒態勢を強めている。現時点で放射線汚染の兆候はないものの、水と食料の安全保障への脅威に備えた緊急計画を策定中だ。

アラブ首長国連邦(UAE)では飲料水の8割以上を海水の淡水化に依存している。バーレーンでは、2016年以降、飲料水を全て淡水化でまかない、地下水は緊急時用として温存しているという。

カタールも飲料水の全てを淡水化に依存している。

サウジアラビアは天然地下水の備蓄が比較的多いが、2023年時点で水供給の約半分は淡水化された水が占めている。

サウジアラビア、オマーン、UAEなど一部の湾岸諸国は複数の海域から取水できるが、カタール、バーレーン、クウェートは湾岸沿岸に密集しており他の海域との接点がない。

ニューヨーク大学アブダビウォーターリサーチセンター所長で工学教授のニダル・ヒラル氏は「自然災害や原油流出、あるいはターゲットを絞った攻撃で淡水化施設が被害を受ければ、数十万人がほぼ即時に安全な飲料水を失う可能性がある」とみる。

「沿岸部の淡水化施設は、原油流出や核汚染といった特定地域でのリスクに対し特に脆弱だ」と同氏は述べた。

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