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アングル:「暑さは人を殺す」、エネルギー補助削減で米国の低所得家庭には危険な夏に

2025年06月15日(日)07時57分

 トランプ米大統領は、国内で600万人が利用するエネルギー補助プログラムを終了しようとしている。写真は、アメリカ北東部を襲った熱波の影響で、ニューヨーク市の路上で休息する男性。2024年6月、ニューヨーク市で撮影(2025年 ロイター/Jeenah Moon)

Carey L. Biron

[ワシントン 12日 トムソン・ロイター財団] - トランプ米大統領は、国内で600万人が利用するエネルギー補助プログラムを終了しようとしている。記録上2番目に温暖な気候が続き、過去最高になると予測される電気料金の高騰の中で同プログラムが終了すれば、夏に低所得者層のコミュニティで多数の死者が出る結果になりかねないと専門家は警告している。

保健福祉省(HHS)では4月、職員大量解雇の一環で低所得家庭向けエネルギー援助プログラム(LIHEAP)のスタッフも解雇された。翌月、トランプ大統領の予算案では、「州には低所得家庭の公共サービスの遮断を防ぐ政策があるために不要だ」として、LIHEAPの完全廃止が提案された。

住民たちは、どうやって涼を取るか不安を抱えている。

「エアコンが私の最優先事項だ」と、ワシントンの低所得者向けアパートに住むビーナス・リトルさん(58)は語る。このアパートでは窓が少ししか開かない。

リトルさんは、3人の子供を育てるシングルマザーで、電気が止められて以来、長年LIHEAPを利用してきた。

現在は、居住者組合の会長である彼女は、284室あるこの集合住宅でのLIHEAP削減の影響を心配している。住民は既に非常に高い公共料金に苦しんでいる。

「LIHEAPプログラムは多くの居住者の生活に大きな影響を与えていた。言葉が見つからない。冷酷だ」と、彼女は話した。

プログラムの存続は、政府の活動を縮小しようとするトランプ氏の広範な施策に抵抗する連邦議会議員にかかっている。

この件について、保健福祉省はコメントの要請に応じなかった。

「これは単にLIHEAPが削減されるだけではない。低所得家庭の財政基盤を削減するものだ」と、全国エネルギー援助ディレクター協会(NEADA)のマーク・ウォルフ事務局長は言う。

「高齢者、障害者、幼い子供のいる家族。彼らは非常に脆弱だ」

公共料金はインフレ率よりも速く上昇しているとウォルフ氏は言う。アメリカの家庭の6分の1で公共料金の支払いが遅れ、その合計は約210億ドル(約3兆450億円)に達している。これはウォルフ氏と彼の同僚が調べてきたなかで、過去最高の数値だ。

NEADAは5月に共同発表した見通しで、冷房費が今後数か月で記録的な高さに達する可能性があると警告し、低所得家庭にとって危険な夏になる可能性があると言った。

実際、暑さは人を殺す。ニューヨーク市の2024年の熱関連死亡報告書によると、毎年約350人が極端な暑さのために死亡しており、家庭にエアコンがないことが最も重要なリスク要因だと報告されている。

<脅かされる暮らし>

1980年代にLIHEAPが創設された際は、主に寒い月の暖房費用を支援することが目的だった。だがその後、夏の暑さがより厳しくなってきた。

昨年の連邦データに基づく研究によると、2023年の熱波では全米で2300人以上が死亡し、1999年以降で117%の増加となった。

低所得家庭において、建物全体に空調を提供する設備を利用する世帯の割合は1979年の8.5%から2020年には半数以上に増加し、冷房費用は1985年から2022年までにほぼ6倍に増加した。

昨年、LIHEAPには連邦政府から約40億ドルの資金が提供された。地方当局によれば、州や都市は電力効率化や電気料金引き下げのための取り組みでは大きな役割を果たしているが、政府の資金を肩代わりすることは不可能だと言う。

「政府の支援が必要だ。このままでは壊滅的だ」とメリーランド州議会の州代表ロリグ・チャーコウディアン氏は言う。

「この夏は危険だ。人々がエアコンを使えないと、体調が悪化して病院に行くことになり、治療の状況はさらに複雑化し、結局はLIHEAPの費用よりもはるかに高い社会的コストをもたらすだろう」

NEADAによれば、首都ワシントンと17の州は、夏の間に電力会社が電気を止めることを禁止している。しかし、33の州にはそのような保護措置がない。

ワシントンでは、議員が寒波の際と同様に、熱波の際の住宅からの強制立ち退き措置の禁止を求めている。

<エアコン設置を義務に>

近年、記録的な熱波と、熱に関連する健康問題の増加が記録されているテキサス州オースティンでは、今年の夏からすべての住居にきちんと稼働するエアコンを設置することが義務付けられた。こうした措置を導入する自治体は増加しつつある。

バネッサ・フエンテス市長代行によると、賃貸住宅の借主が家主に冷房対策を求めて圧力をかけたという。

フエンテス氏は新しい規則の導入を後押しした。この規則は、温度が摂氏29度を超えたときに、「エアコンが設置されていない、または適切に更新されていない場合は借主が市に通報し、苦情を申し立てる」ことができるという。家主側からは、古い建物の改修費用について懸念が示され、既存の法律で十分だという反発もあった。

フエンテス氏によれば、オースティンには公営の電力会社があり、LIHEAPに依存せずに支援を提供できるという。しかし、周辺の郡は連邦プログラムと協力しており、その地域には最低所得層の多くが住んでいる。

連邦政府の予算削減によって「低所得家庭が電気をつけ、安全に家にいることが難しくなる」とフエンテス氏は述べた。

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