コラム:韓国の李新大統領就任、日本に続き株主資本主義に転換か

韓国大統領選挙における最大の勝者は投資家かもしれない。写真は、就任式を終えた李在明大統領。6月4日、ソウルで代表撮影(2025年 ロイター)
Robyn Mak
[香港 4日 ロイターBREAKINGVIEWS] - 韓国大統領選挙における最大の勝者は投資家かもしれない。半年にわたる政治の混乱は、革新系最大野党「共に民主党」の李在明前代表の勝利により終止符が打たれた。株式市場の活性化や、企業経営陣の説明責任のあり方にメスを入れることを公約を掲げた李氏は、有権者から負託を受け、韓国企業が市場で他国企業に比べて低く評価される「コリア・ディスカウント」の解消に本格的に取り組む。
49%余りの得票率で決定的勝利を収めた李氏は、米国の関税措置による影響への対応、脆弱な輸出依存型経済で低迷する国内需要の活性化など、山積する課題を抱えて就任する。それでも、左寄りの政権に対する期待を映し、韓国の主要株価指数KOSPIは今年に入り12%上昇している。これは、李氏のより積極的な財政支出と政府主導の成長という、罷免された尹錫悦前大統領の減税や規制緩和とは異なるアプローチが一定程度寄与している。
李新大統領はコリア・ディスカウントを解消し、KOSPI(4日時点で約2700ポイント)を2倍の5000ポイントに押し上げると公約しており、市場は上昇を維持するとみられる。
韓国では長らくコーポレートガバナンス(企業統治)が不十分で、国内で圧倒的な影響力を持つ財閥は株主保護に関する認識が低く、それがコリア・ディスカウントと高い資本コストをもたらしてきた。
日本の取り組みをお手本に韓国政府が昨年実施した自主的な「企業価値向上プログラム」は一定の成果をあげた。サムスン電子は今年、20億ドル相当の自社株買い入れ消却を実施した。ただ国会で過半数を占める李氏の「共に民主党」は、さらに踏み込み、3月に取締役会の受託者責任を会社だけでなく株主にも拡大する改正商法案を可決させた。ただこの法案は残念ながら財界寄りの大統領代行に拒否権を行使された。
李氏は、大統領に当選したら改正商法案の数週間以内の成立を目指すと主張していた。この改正が実現すれば韓国も、株主価値向上の取り組みがM&A(合併・買収)を促進している日本(3日に発表された豊田自動織機の非公開化計画も一例だ)など、他のアジア市場と足並みを揃えることになる。実効性に欠け企業の自主性に委ねる価値向上プログラムとは異なり、企業経営陣に株主に対しても受託者責任をもたせることは、韓国の1400万人の個人投資家にとって勝利を意味する。JPモルガンのアナリストによれば、コーポレートガバナンス面で他の改善も加われば、「2─3年のタイムラインで韓国市場の大幅な再評価」が促されるという。韓国企業はようやく「革新」を迎えようとしている。
●背景となるニュース
*韓国新大統領に李氏就任、戒厳令の混乱克服や経済再生へ結集呼びかけ
*韓国・李新大統領が就任演説、日米と協力継続 実利的外交追求へ
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)