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8月ロイター企業調査:スパイ防止法「検討すべき」8割も積極・慎重論で二分、運用面に懸念

2025年08月14日(木)10時02分

 ロイター企業調査によると、現在の日本の法制度では機密情報や技術の漏洩を十分防ぐことができていないとの見方から、8割超の企業が「スパイ防止法」の制定を検討すべきと考えていることが分かった。写真はPCを持つ男性とコンピューターコードの画像を重ね合わせたイラスト。2017年5月撮影(2024年 ロイター/Kacper Pempel)

Tetsushi Kajimoto

[東京 14日 ロイター] - ロイター企業調査によると、現在の日本の法制度では機密情報や技術の漏洩を十分防ぐことができていないとの見方から、8割超の企業が「スパイ防止法」の制定を検討すべきと考えていることが分かった。ただ、積極論と慎重論で意見は二分されており、安全保障上の観点などから必要性は感じつつも、政権による恣意(しい)的な運用につながりかねないことへの懸念の声が目立った。

調査は上場・非上場を含む資本金10億円以上の企業を対象に7月30日から8月8日にかけて行われ、497社中241社が回答。約半数は8月1日までに回答した。

自民党は5月、治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会で「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」の制定検討を求める提言をまとめた。防衛・外交に関する機密情報を外国に漏らすなど違反した場合の最高刑を死刑とする内容で、40年前に「国家秘密法案」として国会に提出されたが廃案となった。

現在、日本ではスパイ行為を取り締まる法律はなく、参議院選で同法の策定を主張した国民民主党と参政党が躍進したことで再び焦点となる可能性が高まっている。

調査によると、現在の法制度が外国勢力によるスパイ活動・情報工作から企業の機密情報・技術を十分に保護しているかとの問いへの回答は「あまりそう思わない」(40%)、「全くそう思わない」(21%)が合わせて6割で、「そう思う」の計8%を大きく上回った。

その上でスパイ防止法の制定を本格的に検討すべきかを尋ねると、「早急に検討すべき」と「慎重に検討すべき」が共に42%となり、合計で8割を超えた。

積極派の回答では「日本国内における情報セキュリティーに関する制度は諸外国に比べて遅れていると思う」(情報サービス)として他国との比較で検討を行うべきとの意見のほか、「研究開発段階の新技術が中国など海外だけでなく、国内も含めて競合先に漏れるのを防ぐように法制化して欲しい」(紙・パルプ)といった国内での対応を求める声もあった。

「機密事項を守るためには当然(必要)で、個人情報については法制化され罰則まであるのにスパイ防止法の国会での議論さえできていないのは全く不自然」(輸送用機器)との指摘も聞かれた。

一方、慎重派からは「安全保障等の観点から一定の必要性があると考えるが、恣意的な運用がなされないような基準を設けるなど慎重に検討すべき」(窯業)との意見が多くみられた。同法では国家秘密の内容は政府が決めるため、それが無制限に広がり言論・表現の自由を侵す可能性があることは与野党の反対派も主張している。調査で「早急に検討すべき」と答えた企業からも「政権が意図的に適用可能とすることを歯止めする仕組みが必要」(輸送用機器)との指摘があった。

もっとも、「慎重に」としつつ「戦前の反省に立って法整備していないのだから簡単に立法はできないと思うが、外部環境が大きく変化しているので検討はすべき」(小売)との声もあり、検討そのものには肯定的な意見が多数だった。

「趣旨・目的は一定の理解ができるが、その踰越(ゆえつ)・濫用がプライバシーなど国民生活やそもそも国民主権など自由や民主主義に与える脅威を鑑みると、制定そのものに慎重になるべき」(機械)など、「制定には反対」との回答は1%とわずかだった。

スパイ防止法が導入されれば企業の競争力や価値向上につながるかについては、「そう思う」との回答は合計30%で、最多は「どちらともいえない」の51%だった。

前の2つの設問でも、現在の法制度が情報を十分保護できているか「どちらともいえない」は31%、スパイ防止法の制定を検討すべきか「わからない」と答えた企業も15%あり、まださほど議論の対象としてみなされていない様子もうかがえた。

ロイター
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