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アングル:関税合意、日米で発信に食い違い 5500億ドルの「投資」とは

2025年07月25日(金)18時18分

 7月25日、 日米関税交渉の合意内容に、野党や専門家から疑問の声が上がっている。写真はトランプ米大統領のミニチュアモデルと日本の旗。イメージ写真(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

Tamiyuki Kihara Makiko Yamazaki

[東京 25日 ロイター] - 日米関税交渉の合意内容に、野党や専門家から疑問の声が上がっている。両国の発信に食い違いが見て取れるからだ。5500億ドル(約80兆円)の「投資」について、あくまで投融資と政府保証の「枠」を設けただけだと説明する日本政府に対し、米国は「日本が(同額を)投資する」と成果を強調。「ファクトシート」に合意内容を列挙した。立憲民主党など日本の野党は、米国との間で解釈が食い違わないよう正式に合意文書を交わすよう求めている。

<9対1で米に利益還元>

「今回の合意を何とか非難しようという方たちが5500億ドルを米国に取られたみたいな理解をしているが、本当に頓珍漢(とんちんかん)もいいところだ」。交渉に当たった赤沢亮正経済再生相は25日、自民党本部で記者団にこう述べた。

赤沢氏によると、まずは日米企業などが米国で投資の計画を立て、国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)が審査をし、融資を実行したり保証を与けたり、場合によっては出資もする。「『枠』として出資、融資、融資保証を用意した」もので、「5500億ドルが積み上がるまでは責任を持ってやる」との意味だという。

米側が「利益の90%は米国に還元される」と表明している点については、「出資割合やリスクの分担割合など踏まえ、最終的には民間企業が契約ベースで決める」と説明。「9対1(の利益分配)を米側が追求するということは、当然それだけ大きな貢献やリスク負担をする覚悟が米側にあると理解している」と述べた。

記者からこうした認識が日米で共有されているのか問われると、「(米側の閣僚は)出資、融資、融資保証がどういうものか当然理解をしている。その前提でプロ同士が話をしているので、(認識の共有は)当たり前だ」と強調し、合意の意義を訴えた。

<「地雷原に」>

一方、米側は合意後の23日に「ファクトシート」を発出。日本が米ボーイングの航空機を100機購入することや、防衛装備品の購入拡大などを盛り込むとともに、「日本は米国の指示の下、米国の基幹産業の再建・拡大に向けて5500億ドルを投資する」と明記した。

この点に、野党側からは疑問の声が上がる。25日午前、石破茂首相と与野党党首が国会内で会談。国民民主党の玉木雄一郎代表は会談後、記者団に「(首相から説明を聞いても)日本経済への影響を最小にする合意内容なのかよくわからなかった」とし、ファクトシートの内容を挙げ、「非常に危険だ。国民負担に直結する可能性がある」と述べた。

立憲民主党の野田佳彦代表は、ベセント米財務長官が「四半期ごとに(合意の順守状況を)精査し、トランプ大統領が不満であれば、自動車とその他製品の両方について関税率を25%に戻す」と述べている点にも触れ、記者団に「きちんとした合意文書を交わす必要がある。解釈の違いが地雷原になるのではないか」と語った。

4月から続いた交渉を終え、24日午後に帰国した赤沢氏は東京の羽田空港で記者団の取材に応じ、2019年に結んだ日米貿易協定のような法的拘束力のある文書に署名する考えはないとの認識を示した。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは25日の自身のコラムで米側のファクトシートに触れ、「日本国民の負担ともなり得る日本の政府系金融機関が出資、融資、融資保証を通じて支援する日本企業の米国での投資活動が、専ら米国の産業の再建に貢献するために行われ、しかもそれを主導するのがトランプ大統領であると説明しているように読める」と指摘。

「日本政府は、ファクトシートの記述が日米間で合意した内容に即したものであるかどうかをしっかりと確認し、また国民に説明した上で、問題箇所についてはトランプ政権側に修正を強く申し入れるべきだ」とした。

(取材協力:竹本能文、山口貴也 編集:久保信博)

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