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インタビュー:戦後続くドル基軸体制「変わることない」=浅川元財務官

2025年07月10日(木)10時33分

 元財務官で国際通貨研究所理事長の浅川雅嗣氏は、第二次世界大戦以降続く米ドルを基軸とする国際通貨体制について、今後も「変わることはない」との見方を示した。北京で2023年7月、代表撮影(2025年 ロイター)

Leika Kihara Takaya Yamaguchi

[東京 10日 ロイター] - 元財務官で国際通貨研究所理事長の浅川雅嗣氏は、第二次世界大戦以降続く米ドルを基軸とする国際通貨体制について、今後も「変わることはない」との見方を示した。9日に実施したロイターとのインタビューで語った。

トランプ米政権が4月2日に相互関税を発表した直後、金融・資本市場では株と米国債、ドルが同時に売られた。トリプル安と呼ばれる現象で「リスクオフになったのにドルが売られることは珍しい」と、当時を振り返った。

浅川理事長は「市場の一部にドル基軸通貨制への迷いが出てきたのかも知れない」としたが、一方で「ユーロや人民元はドルに代わる基軸通貨となり得ないため、ドル基軸通貨体制は揺らがないだろう」と述べた。

ドルが売られればさらにインフレが高進しかねず、ベセント米財務長官もその点は理解しているだろうと背景を語った。インタビューではドルを意図的に弱くし、輸出競争力を高める「マールアラーゴ合意」の思惑にも触れ、「第2のプラザ合意はない」と述べた。日本の円安を批判する可能性は低いとも述べた。

浅川氏は2015年7月から19年7月まで4年にわたり財務官を務めた。オバマ政権時の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や第1次トランプ政権時の貿易交渉に、事務方として奔走した経歴を持つ。

貿易交渉では為替条項を盛り込む動きもあった。為替協議を巡って日本側は「合意事項をTPP本体と一体化させないことと、法的拘束力を持たせないこと」を求めたと振り返った。

第1次トランプ政権下での経験を踏まえ、第2次政権下で交渉に当たる赤沢亮正経済再生相とベセント財務長官の間でも「貿易交渉のコンテクスト(文脈)で、為替の話は出ていないと理解している」と語った。

<今後は「ならせば円高方向」>

トランプ政権が主導する貿易赤字解消に向けた関税交渉については「自由貿易体制を維持するコストは米国が負担してきた」と一定の理解を示し、米国がどこまでコストを負担し続けるかは「トランプ政権でなくでも考えなくてはいけない」と述べた。

一方、関税を課しても「関税だけで生産拠点が決まるわけではない」と言及。「無理に関税かけて(現地生産を)引き戻そうとしても労働力もタイトな米国で(企業が)生産しようと思うのかは未知数」と語った。

インタビューでは、関税政策に伴う経済影響について「大きな下押しリスクを認識せざるを得ない」とも話した。トランプ政権が米連邦準備理事会(FRB)に利下げ圧力をかけても「米金利は容易に下がらない」との見方を示し、関税政策や財政スタンスに起因する金利上昇圧力への懸念も、併せて述べた。

米中経済の不確実性が増す現状に対し、日本経済への影響が出てくるのは「これからだ」と指摘。日銀の次の一手に関し「中立金利(への正常化)に向けて着実に進んでいくだろうが、タイミングはじっくり見極めながらの判断になる」との期待感を示した。

為替については利下げを模索するFRBと、正常化を進める日銀の政策スタンスから「金利差は今後縮小する方向で、ならせば円高方向」との見通しを語った。

浅川氏は20年1月にアジア開発銀行(ADB)総裁に就任。5年余りの任期を経て、25年2月に退任した。

在任中はアジア開発基金の累次の増資や、国際開発金融機関の改革などに取り組み、アジア太平洋地域の成長を支えた。25年7月から現職。

ロイター
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