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日産、サプライヤーに支払い延期要請 英や欧州で=関係者

2025年06月30日(月)18時05分

 経営再建中の日産自動車が、手元資金の確保へ一部サプライヤーに代金の支払い延期を求めていたことが分かった。写真は、同社販売店内の車両のロゴ。2月18日、オランダのアーネムで撮影(2025年 ロイター/Piroschka van de Wouw)

Daniel Leussink

[東京 30日 ロイター] - 経営再建中の日産自動車が、手元資金の確保へ一部サプライヤーに代金の支払い延期を求めていたことが分かった。電子メールのやりとりや日産の社内文書をロイターが確認するとともに、事情を知る関係者が明らかにした。

日産が延期を要請した対象は、英国と欧州連合(EU)域内の一部サプライヤー。最近では6月にメールを送付した。サプライヤーが延期に応じれば、日産は4─6月期の手元資金減少を抑えることができる。1─3月期末が近づく3月末にも同様のメールを送っていた。

日産はロイターの取材に対し、より柔軟な支払い条件による協力を一部サプライヤーに依頼していると説明。フリーキャッシュフローを下支えするためで、サプライヤーに負担は求めていないとした。「サプライヤーは即座に支払いを受けるか、利息付きで後日の支払いを選ぶか選択できる」とした。

企業が手元資金を厚くするため、取引先に支払い延期を求めることは珍しくない。ボストン・コンサルティング・グループは昨年、支払い期限の延長は企業がキャッシュフローと運転資金を創出・維持する有効な手段だと指摘するリポートをまとめた。適切なキャッシュの水準を維持することは、企業が信用格付けを損なうリスクを回避する上でも役立つとしている。

それでも今回明らかになったメールのやり取りや社内文書は、将来的に支払額が増えたとしても目の前の資金確保を優先する日産の動きを浮き彫りにしている。

メールは、英国とEU域内の日産従業員の間で交わされていた。交流サイトのリンクトインでプロフィールを確認したところ、購買や財務部門の従業員も含まれていた。

今月やり取りされた複数のメールは、サプライヤーに「再び」支払い延期を求めたと説明。6月の支払いが8月15日に延びる可能性があるとし、一部の支払いが9月に後ろ倒しされる可能性にも言及している。「CEOからのトップダウンの要請」であるフリーキャッシュフローの改善が目的で、取引先が支払い延期の受け入れを強制されることはないとしている。

日産の自動車事業のフリーキャッシュフローは、第1・四半期(4─6月期)がマイナス5500億円と前年同期のマイナス3028億円から悪化する見通し。

日産はロイターの取材に、社内の議論や具体的な目標についてはコメントしないとする一方、業績回復と筋肉質な構造への転換を目指すとともに「再生計画に伴うコストに対処し、社債償還に対応するのに十分な流動性の確保を目指している」とした。

東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、「日産は足元の現金流出をできるだけ先送りしたいのだろう」と指摘。「資金調達での厳しさを物語っている」と話す。

<資金の「調達タスク」>

財務部門のディレクターが、1億5000万ユーロ(約240億円)の資金調達目標に触れるメールもあった。同ディレクターが5月に送ったメールでは「1億5000万ユーロの調達タスク」の達成が必要だとし、同じ時期の別のメールでは「調達タスク」の1億5000万ユーロを達成するため、サプライヤーへの支払いを(第2・四半期が始まる)7月まで延期する選択肢があるとした。

ロイターが閲覧したメールによると、日産は2つの支払い延期案を検討。1つは支払いを遅らせる代わりに額を増やすというもので、もう1つは英金融機関のHSBCが期日までに支払いを代行し、日産が後日利息を付けて銀行に返済するというものだった。

日産が3月に英規制当局へ提出した書類によると、HSBCは取引銀行の1つ。HSBCはロイターの取材に対し、顧客に関する事項はコメントを控えるとした。

ロイターは日産が延期を要請したサプライヤーの数や、要請した延期の期間を確認できていない。メールの1つは、45日間の延期に言及していた。北米や日本のサプライヤーにも同様の依頼をしたかどうかも確認できていない。

昨年10月の社内文書によると、日産は英国とEUの10社を超える企業との支払い条件を延長することでフリーキャッシュフローを最大5900万ユーロを増やせると推定していた。この対象企業には、英国に拠点を置く人材派遣会社マンパワーグループの傘下企業や海運大手の商船三井が含まれていた。

マンパワーグループと商船三井はロイターの取材にコメントを控えた。

4月に就任した日産のイバン・エスピノーサ最高経営責任者(CEO)は、今後2年間で5000億円のコスト削減を図る一環として7つの工場閉鎖と約2万人を削減する計画を打ち出している。車のラインアップが刷新されず米国や中国での販売不振などが響き、2025年3月期は6708億円の最終赤字を計上した。不透明な米国関税の影響も重なり、26年3月期の業績予想は公表していない。

日産の3月末時点の手元資金は2兆2000億円。26年3月期に総額約7000億円の社債償還を迎える。日産の社債は主要格付機関3社が「ジャンク級」に格下げしている。日産は今月提出した書類に、さらなる格下げが今後の資金調達計画を複雑化する可能性があると記している。

(Daniel Leussink 取材協力:白木真紀 編集: David Dolan、久保信博)

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