日銀総裁「無理に利上げせず」、物価の上昇確度に応じて調整

日銀の植田和男総裁は6月3日、参院財政金融委員会の半期報告で、実質金利が極めて低いことを踏まえると、展望リポートで示した見通しが実現していく場合、「経済・物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と述べた。5月1日、都内で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Takahiko Wada Yoshifumi Takemoto Shinichi Uchida
[東京 3日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は3日、「経済・物価情勢の改善が見込めない中で無理に利上げすることはない」とした上で、「先に金利ありきでない」と述べた。経済・物価がいったん足踏みする可能性に言及し、その後上昇する確度に応じて利上げに踏み出すとの考えを示した。
植田総裁は半期に一度の「通貨および金融の調節に関する報告書」を参院財政金融委員会で説明。米国の関税措置で経済・物価の下振れリスクがある中で利上げの可能性を発信しているのは、利下げ余地を確保するためなのではないかと質問されて答えた。
利上げに前向きな姿勢を示すことは政府の経済政策運営にとって懸念材料となるのではないかとも問われ、「今後とも政府との間では十分意思疎通を図りたい」と応じた。
植田総裁は半期報告で、実質金利が極めて低いことを踏まえると、展望リポートで示した見通しが実現していく場合、「経済・物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と述べた。
見通し実現の判断に関し、各国の通商政策などの今後の展開やその影響を巡る不確実性が極めて高い状況にあると指摘し、「内外の経済・物価情勢や金融市場の動向等を丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくのが重要」と語った。
一方で、利下げに踏み切る条件については「将来の経済・物価見通しについてきちんと分析・確認した上で、各時点で適切な政策を決定していきたい」と述べるにとどめた。
物価について植田総裁は、昨年秋以降のコメ価格上昇などコストプッシュ要因の物価上昇圧力がだんだん減衰していく一方で、基調的な物価上昇率はいったん伸び悩んだ後に再び上昇率が高まっていくとし、消費者物価の総合指数の前年比と基調的な物価上昇率の乖離(かいり)は「時間はかかるかもしれないが縮まっていく」と述べた。
賃金については「来年の春闘に関税政策による経済下押しが多少影響するが、賃金上昇率が少し低下する程度との見通しがメインシナリオ」と説明した。
<来年3月までの国債買い入れ、「修正求める声限定的」>
日銀は6月の金融政策決定会合で国債買い入れ減額計画の中間評価を行う。植田総裁はこれまでの減額の経験を踏まえ、市場動向や機能度をしっかり点検すると説明した。その上で2日に公表した市場参加者との会合の議事要旨に触れ、「来年3月までの国債買い入れ減額計画の修正を求める声は限られている」と指摘した。一方、「来年4月以降の国債買い入れについては、具体的な減額ペースにはさまざまな意見があった」とした。
超長期債については「国債市場の投資家の構造やレート形成への影響を丁寧に確認していきたい」と話した。経済活動への影響は超長期債の金利上昇より短中期の金利の影響が大きいとしつつ、「超長期金利の変動が短中期の金利に影響を及ぼす可能性もある」と話し、市場動向やその経済への影響を引き続き注意して見ていきたいと述べた。
また、植田総裁は為替について「特定の水準に誘導するような政策運営はしていない」と改めて説明。為替円高の影響は企業の業種や規模によって異なるとした上で「金融為替市場の動向が経済・物価に及ぼす影響を丁寧に確認したい」と話した。
<異次元緩和、財政を支えるためではない>
植田総裁は日銀の財務について、金利上昇の過程で収益は悪化するが、その後は超過準備の減少や保有国債の受取利息の増加などで収益は回復していくと説明し、「(日銀に対する)信頼を逸することにはならない」と述べた。
通貨発行権を持つ政府が自国通貨建て国債を発行している限り、財政赤字を拡大しても債務不履行にはならないとする「現代貨幣理論(MMT)」に関連して、2013年から日銀が行っていた異次元緩和が「MMTの実践だったのではないか」との質問には、異次元緩和は物価目標の実現を目指して実施したものであり「金融政策上の目的を超えて、財政を支えるために国債買い入れや低金利政策を進めてきたことはない」と語った。