ニュース速報
ビジネス
物価目標実現「まだ」「はっきり視界に」、意見割れる=7月日銀要旨
日銀が7月に開いた金融政策決定会合では、2%物価目標を巡る意見の隔たりが鮮明になった。写真は、日銀旧館の全景。2023年9月20日に撮影。(2023年 ロイター/Issei Kato)
Takahiko Wada
[東京 27日 ロイター] - 日銀が7月に開いた金融政策決定会合では、2%物価目標の実現を見通せる状況にはまだ至っておらず、「マイナス金利政策の修正にはなお大きな距離がある」との見解を1人の委員が示したことがわかった。一方、別の1人の委員は2%の持続的・安定的な物価上昇の実現が「はっきりと視界に捉えられる状況になっている」として、来年1―3月ごろには実現が見極められる可能性があると述べ、物価目標を巡る意見の隔たりが鮮明になった。
27日に日銀が7月会合の議事要旨を公表した。この会合で改訂された展望リポートでは、2023年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の見通しが前年度比プラス1.8%からプラス2.5%に大幅に引き上げられる一方で、24年度や25年度は2%を下回った。
ある委員は「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクより、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きい」と述べていた。
<YCC柔軟化、「市場安定しており適切」>
7月会合では、賛成多数でイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化が決定された。長期金利について0.5%を上回る上昇を容認し、10年国債を対象とする連続指し値オペの実施金利を1%に引き上げた。
何人かの委員が「現在の市場環境は安定しており、運用の柔軟化を行うのに適切な時期だ」と述べた。1人の委員は、長期金利に上限を設ける中で予想物価上昇率が高まると実質金利を通じた緩和効果が高まるが、「同時に市場の不安定化といった副作用も強まる」と指摘した。
<賃金・物価、見解の違い鮮明>
展望リポートでは、リスク要因として企業の賃金・価格設定行動が新たに追加されたが、この点についてもメンバー間で意見の違いが鮮明となった。
賃金について、何人かの委員が「労働需給の引き締まりを踏まえると、企業が来年以降も人手を確保するために賃上げを続ける可能性は高い」と述べた。「人手不足の強まりから、賃金上昇率が非線形的に高まり出した可能性もある」(1人の委員)との指摘も出された。
一方で、別の1人の委員は、賃上げを巡る企業の姿勢は二極化し、付加価値向上への工夫と投資で賃上げ・値上げを実現しようとする企業と、低賃金・低付加価値・低価格路線で粘り抜こうとする企業に分かれているが、前者のように賃上げ・値上げを実現しようとする企業が「主流となっているとはまだ言えない」と述べた。
さらに別の委員は「中小企業は6割が赤字法人で収益力が弱く、今後の賃金上昇の広がりを確認する必要がある」との見方を示した。
1人の委員は、物価が今年度後半に2%を下回る水準に低下した後、再び2%に向けて上昇し安定的に維持されるためには、今年の春闘を上回る賃上げが「トレンドとして定着」することが重要との見方を示した。
<米欧流の物価上昇はあるか>
ある委員は、財価格の上昇幅はこれまでの輸入物価上昇分を転嫁したら実現する程度で、サービス価格はおおむね賃金上昇に伴うコスト増をカバーする程度の水準だとして「コスト上昇分を大きく上回る水準まで上昇した米国や英国とはかなり差がある」と述べた。
その一方で、別の委員は「米欧で見られたような物価の大幅な上振れが、程度の差はあれ、日本でも生じ得るリスクは注視していく必要がある」と警戒感を示した。
1人の委員は「予想物価の変化を十分に考慮できてこなかったことが、輸入物価の転嫁や賃金への波及の程度を過少に見積もることにつながった面があるのではないか」と述べた。
(和田崇彦 編集:宮崎亜巳)