ニュース速報

ビジネス

焦点:米ゴールドマン決算、取引収益悪化は業界の縮図

2017年07月22日(土)10時29分

 7月20日、米大手銀はここ数年、自己勘定取引からマーケットメークに事業の軸足を移すため、多大な金銭的、人的資源を投じてきたが、それでも相場が思わぬ方向に動くと大幅損失を免れない。ニューヨーク証券取引所で2012年1月撮影(2017年 ロイター/Brendan McDermid)

[20日 ロイター] - 米大手銀はここ数年、自己勘定取引からマーケットメークに事業の軸足を移すため、多大な金銭的、人的資源を投じてきたが、それでも相場が思わぬ方向に動くと大幅損失を免れない。ゴールドマン・サックスが今週発表した第2・四半期決算が好例だ。

ゴールドマンの1株当たり利益は前年同期の3.72ドルから3.95ドルに増加したが、コモディティ取引の収益は上場企業として過去最悪だった。

マーティー・チャベス最高財務責任者(CFO)はマーケットメークを小売店になぞらえ、顧客の需要を読み誤り、棚に並べる商品を間違えたと説明。顧客の売りを吸収し、顧客が望みそうな新商品を作り出す能力が必要だとし、トレーディングのリスク管理は「芸術であり、科学でもある」と難しさを強調した。

ゴールドマンだけではない。ここ数年、米JPモルガン・チェース、米シティグループ、英バークレイズ、独ドイツ銀行といった大手銀はそろって為替、金利、債券の市場で損失に苦しんできた。

金融危機の反省に立ち、自己勘定取引を制限するために導入された「ボルカー・ルール」の下、銀行は「常識的に予想される短期的な需要」を満たすだけのポジションしか保有できなくなった。しかしその結果、一部の市場では流動性が細り、銀行が顧客のため、あるいは自社のリスク管理目的でポジションを手当てするコストは上がった。

また、自己資本規制の強化により、ある種の資産の保有コストが上がった一方、一部の市場では長期間にわたって変動が小さくなり、突然の取引急増を予想しづらくなった。

<まぐれ>

突然の相場変動による損失を防ごうと、銀行は市場の方向を予想するアルゴリズムを開発し、トレーダーがリスク上限を破れないようにする技術を導入し、リスク管理者の採用を増やし、彼らの権限を高めてディーラーの意思決定に異議を唱えられるようにした。

コンサルティング会社オピマスによると、銀行は昨年、管理・法令順守システムと人員強化に1000億ドル以上を投じた。

しかしゴールドマンが第2・四半期に直面したように、コモディティ価格が大幅下落し、他の市場の変動率が歴史的低水準になり、顧客の取引が減少するという環境下では、そうした努力も無駄になる可能性がある。

同社のコモディティ調査アナリストらは6月29日のリポートで、相場が予想外の基調をたどったことについて「われわれ(そして市場)はどうしてこんなに読み間違ってしまったのだろう」と嘆いた。

ゴールドマンは長らく、リスク管理スタッフの独立性と権限の強さを誇ってきた。3月にはリスク管理チームを独立部門に移すことで、さらに重要性を高めた。

銀行アナリストの中には、過去の実績に鑑みてゴールドマンの今回の業績を大目に見るべきだ、との声もある。

オッペンハイマーのアナリスト、クリス・コトウスキー氏は「(今回のような結果が出るのは)この商売の定めだ。問題になるのは、自己資本比率に食い込んで社を危険に陥れるほど巨額の損失を出すか、あるいは慢性的に今回のような損失を出し続ける場合だ。今回の損失がまぐれではなく慢性だと結論付けるのはまだ早い」と話した。

(Olivia Oran記者)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中