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中国を「A1」に格下げ、財政の健全性低下で 中国当局は反論

2017年05月24日(水)17時24分

 5月23日、格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは中国の自国通貨建てと外貨建て格付けを「AA3」から「A1」へ1段階引き下げた。向こう数年で財政面の健全性が低下するとの見方を反映したとしている。写真は中国国旗。北京で2015年10月撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[上海 24日 ロイター] - 格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは中国の自国通貨建てと外貨建て格付けを「AA3」から「A1」へ1段階引き下げた。成長が鈍化し、債務の拡大が続くに伴い、向こう数年で財政面の健全性が低下するとの見通しを示した。

格付け見通しは「ネガティブ」から「安定的」に変更した。

ムーディーズは格下げについて声明で「中国の潜在成長率が低下し経済全体の債務が引き続き増加するのにつれて、今後数年で財務面の強さが一部弱まるとの予想を反映した」と説明。

「改革の進展により時間とともに経済と金融システムが変革される可能性は高いが、経済全体で負債が大幅に増加し、政府の偶発債務が拡大することを回避することは困難な公算が大きい」と分析した。

「今後数年で経済全体の債務が増える見込みだ」とし、改革プログラムにより債務の増加はペースが緩和しても止まることはないとの見方を示した。

中国の潜在成長率は数年間で5%まで低下する可能性が高いが、景気刺激策が打ち出されるとみられるため鈍化は緩やかなペースになると指摘した。

政府の直接的な債務負担は2018年までに国内総生産(GDP)比40%へ徐々に上昇し、20年末までに45%へ接近すると予想した。

また政府、家計、非金融企業の債務は拡大が続くとの見方を示し、現時点でA1の格付けが相応な中国の信用状況が悪化する恐れがあるとの見方を示した。

<改革を過小評価と反論>

ムーディーズによる格下げに対して、中国財政省は不適切な手法に基づいていると反論。中国経済の問題を誇張する一方、改革の取り組みを過小評価しているとの見方を示した。

また、中国の政府債務は適正なペースで拡大する見込みで、地方政府の投資会社や国有企業の債務水準の高まりが政府債務を押し上げることはないと指摘した。

また、中国の国家発展改革委員会(NDRC)も24日に声明を発表し、企業のレバレッジ低下に向けた措置は効果がでており、中国の債務リスクは総じてコントロール可能との認識を示した。また、債務のシステミックリスクは比較的小さいと強調した。

今回の格下げを受け、中国株式市場では上海総合指数<.SSEC>が取引開始直後に1%超下落。その後、下げ幅を縮小した。オフショア市場の人民元は、朝方に6.8901元まで下げたものの、その後値を戻し、正午ごろには6.8835元と、前日終値比0.06%の元安/ドル高で取引された。

みずほ銀行トレジャリー部門のアジア経済・戦略担当責任者ビシュヌ・バラサン氏は「中国が銀行システムのリスク削減を目指し、国有企業再編の可能性もある中、市場心理がかなりネガティブになるのは明らかだ」と語った。

ムーディーズは2016年3月に中国の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更。債務の増加に加え、当局による改革実行や経済不均衡是正を巡る不透明感を理由に挙げていた。

16年3月にはS&Pも見通しを「ネガティブ」に変更した。S&Pは中国の格付けを「AAマイナス」としており、ムーディーズの「A1」とフィッチ・レーティングスの「Aプラス」をいずれも1段階上回っている。

<再度見直しの予定ない>

ムーディーズ・ソブリン・リスク・グループのアソシエート・マネジング・ディレクター、マリー・ディロン氏は、中国の格付けを再度見直す具体的な予定はないが、定期的に状況を評価する方針だと述べた。

同氏はロイターに対し、中国の金融システムに対するリスクは「おおむね均衡している」と語った。

その上で、レバレッジが予想以上に急速に拡大し、金融セクターに緊張をもたらしているとみられる場合、格付けにはネガティブな圧力が強まると指摘。

逆に、レバレッジ解消に向けた改革が予想以上に奏功すれば、格付けにはポジティブな圧力になるとした。

中国の政策を巡っては、ムーディーズとしては国有企業改革や過剰能力削減、企業の混合保有、シャドーバンキング部門の引き締まりなどに関連した措置に注目すると述べた。

*情報を追加しました。

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