ニュース速報

有力支援者にロシア軍需産業の元大物、英首相候補のジョンソン氏

2019年07月23日(火)08時04分

Catherine Belton

[ロンドン 19日 ロイター] - クレムリンの中枢と関わりのあるロシア軍需産業の元大物が、英保守党の主要な支援者であるとともに、メイ首相の有力な後任候補ボリス・ジョンソン前外相の「友人」を自認している。

アレクサンドル・テメルコ氏は、1990年代にロシアの軍需産業で頭角を現し、同国国防相や諜報機関と密接な関わりがあった。選挙資金記録によると、同氏は2011年に英国の市民権を取得して以来、過去8年間で保守党に計100万ポンド(約1億3500万円)超と、英国の基準では多額の献金を行っている。

ロイターのインタビューで、テメルコ氏は次期首相候補であるジョンソン前英外相とは「友人」だと述べ、同氏の首相就任を後押ししていることを明らかにした。

<ワインを飲みながら「企み」>

ジョンソン氏とは互いに「サーシャ」と呼び合う関係だという。サーシャは、ロシアではアレクサンドルのニックネームで、ジョンソン氏の本名のファーストネームでもある。

テメルコ氏は2016年にジョンソン氏が外相に就任したころのことを回想し、議会内にあるジョンソン氏の事務所のバルコニーで、夜遅くまで2人でワイングラスを傾けながら「企み」をしたものだと語った。

テメルコ氏とロシアのプーチン政権とのかつての関係性や、現在の同氏の英政治へのかかわりが判明する以前から、英政界ではロシアが英国の民主主義に介入している可能性について懸念する声が上がっていた。

英国の欧州連合(EU)離脱を問う2016年の国民投票に、ロシアによる介入の可能性を指摘した野党労働党のベン・ブラッドショー議員は、ロイターの取材で判明したテメルコ氏を巡る状況について、「極めて不安にさせられるものだ」と述べた。ロシア側は、介入疑惑を否定している。

ジョンソン氏の広報担当者は、複数回にわたるコメントの求めに応じなかった。一方、保守党は「寄付金は選挙委員会に適正かつ透明に申告されており、同委員会がそれを公表している。完全に法律に沿ったものだ」と回答した。

ジョンソン氏は、テメルコ氏から寄付金を受け取った政治家の記録には含まれていない。だが、テメルコ氏は、保守党党首選のジョンソン氏の選挙参謀役の1人であるジェームス・ウォートン氏を含め、議会におけるジョンソン氏の重要な側近に献金している。

2017年まで議員だったウォートン氏は、現在テメルコ氏が経営幹部に名を連ねる英エネルギー企業アクィンドの顧問を務めている。2013年6月、EU離脱を問う国民投票の実施を求める法案を最初に議会に提出したのがウォートン氏だった。

議会に開示された資料によると、テメルコ氏は2013─15年に、ウォートン氏に2万5000ポンドの献金をしている。これは1議員に対しての献金としては比較的大きな額で、ウォートン氏はこの資金も使って15年に再選を果たしている。

ロイターはウォートン氏にコメントを求めたが、応じなかった。

テメルコ氏は、昨年12月に保守党議員が画策して失敗したメイ英首相を更迭させようという試みにも加わったと明らかにした。ある保守党幹部は、メイ氏辞任に向けた動きにテメルコ氏が「極めて深くかかわっていた」と認めた。

メイ氏は6月7日に辞任を表明している。ロイターがメイ氏の事務所に連絡したところ、保守党に問い合わせるよう回答した。保守党からは回答がなかった。

<ロシア当局とは「切れた」>

テメルコ氏はソ連崩壊後の1990年代、ロシアの軍需産業で台頭した。同氏はインタビューの中で、ロシアの国防相と緊密な関係を築き、ロシア軍の幹部が自分のために働いていたと述べた。

また、当時の自分の立場は揺るぎのないもので、プーチン氏が主宰し、ロシア政府の最重要幹部24人が出席する国家安全保障会議に参加したこともあったとも語った。

ロシア政府報道官は2005年に英国に逃れたテメルコ氏について、政府や同国機関との結び付きは「無い」とした上で、「この人物は知らない」と述べた。

テメルコ氏は、ロシア治安当局者との関係は「個人的なものではなく形式的なものだった」と話し、現在は関係が切れていると述べた。また、同国から「ペルソナノングラータ(好ましくない人物)」に指定されていると説明した。

テメルコ氏は2005年に英国に渡った。自身が取締役会のメンバーだったロシア大手石油会社ユコスの破綻後の政治的な混乱から逃れるためだったという。ロシア政府は、国営石油企業ロスネフチに対する詐欺容疑でテメルコ氏を訴追したが、同氏は容疑を否認している。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨

ワールド

イスラエル軍、ガザ攻撃「力強く継続」 北部で準備=
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中