コラム

ビジネスか、国際秩序か──「台湾海峡危機」が日本に突き付けたものとは?

2022年08月17日(水)12時26分
自衛隊

航空自衛隊は将来の台湾危機で出動するのか(沖縄の那覇基地) KEIZO MORI/AFLO

<2049年までに台湾併合を成し遂げると公言する習近平だが、2030年までに前倒しの予測も。日本は「自由で開かれたインド太平洋」、それとも「中国が覇権を握るインド太平洋」で生きるかを迫られることに>

ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけに、アジアの全ての国が一つの大きな選択を突き付けられた。その国はどのような未来を望むのか。次第に多極化する「自由で開かれたインド太平洋」で生きたいのか。それともアメリカが西半球に押し返されて、中国が覇権を握るインド太平洋で生きたいのか。

ペロシの訪台でアメリカと中国の間の緊張が高まり、「第4次台湾海峡危機」と呼ぶべき状況が生まれている。26年前の第3次台湾海峡危機を振り返ると、この四半世紀の間に台湾問題の危険性がいかに増大しているかがよく分かる。

1995~96年、中国が台湾周辺の海域にミサイルを発射した。アメリカが台湾の李登輝総統(当時)の入国を認めたことと、台湾初の直接総統選挙に抗議し、台湾独立への動きを牽制することが狙いだった。

しかし、当時のアメリカは世界で唯一の超大国。国防予算は中国の約20倍に達していた。アメリカが台湾海峡に2隻の空母を派遣すると、中国はそれをただ見ているほかなかった。

一方、今日の中国は政治的にも経済的にも巨大な存在になっている。軍事力でもアメリカに肩を並べようかという勢いだ。世界最大の海軍を擁し、アメリカの空母を破壊するためのミサイルも配備している。

習近平(シー・チンピン)国家主席は、アメリカが衰退しつつあると見なしていて、台湾を併合することにより国の誇りを高めたいと考えている。2049年までに台湾併合を成し遂げると、習は公言している。2030年までに中国が台湾に侵攻すると懸念する論者もいる。

中国政府はペロシの訪台が中台分離を狙うアメリカの政策転換の一部で、「平和と安定」そして台湾への主権を脅かすと受け止め、今回も台湾周辺の海域にミサイルを撃ち込み、大規模な軍事演習を実施した。

アメリカと中国という2つの大国が台湾を舞台に激突することになるのではないか──アジアの国々は懸念を募らせている。しかし、それらの国は、いま自国が大きな選択を迫られていることも認識すべきだ。

この10年以上、中国の対外姿勢はますます強硬になり、チベットから南シナ海までさまざまな地域で強引に自国の意思を押し付けてきた。中国政府を批判する外国の研究者などへの圧力も強めている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story