コラム

嘘つき大統領トランプがアメリカの民主主義を打ち砕く

2019年10月16日(水)17時25分

「規格外」の振る舞いはワシントンの堕落を象徴している LEAH MILLIS-REUTERS

<法も理性も無視する大統領に迫る弾劾、しかし民主主義の根幹は既に崩れ始めている>

現代の米政治において、さらにはアメリカの250年近い歴史の中でも、とりわけ重要な出来事が起きているのだろうか。

9月24日に民主党のナンシー・ペロシ米下院議長が、ドナルド・トランプ米大統領の「重大な犯罪と不品行」について弾劾調査を開始すると発表した。来年の大統領選で対立候補になるかもしれないジョー・バイデン前副大統領のスキャンダル欲しさに、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に見返りをちらつかせて脅したという疑惑が持ち上がっている。

アメリカの法律では、公務員が「選挙に関連して......献金や寄付金その他、価値のあるもの」を受け取ることは、違法とされている。

2008年の大統領選で民主党の有力候補と目されたこともあるジョン・エドワーズ元上院議員は、不倫スキャンダルをもみ消すためにこの法律に6回違反したとして(どこかで聞いた話だ)起訴され、政治生命を絶たれた。

米史上、外国の首脳を脅して個人の利益のために便宜を図らせたと非難された大統領はいない──トランプを除いて。

9月25日、トランプとウクライナ大統領のゼレンスキーが7月に行った電話会談の記録が公開された。トランプは会談の直前に、ウクライナへの4億ドルの軍事支援を凍結していた(これも違法性が指摘されている)。

トランプはこの会談で、ゼレンスキーに「頼みたいことがある」と話し掛け、バイデンと息子の調査を促し、軍事支援についても話し合った。自分の政治的利益と引き換えになら、支援を再開するという圧力ではないかとみられている。

トランプは政府の力を利用してバイデンのスキャンダルを探し、さらには捏造して、延々と非難してきた。

バイデンは「腐敗」している。ウクライナがバイデンの圧力に応じて2016年の米大統領選に介入し、ヒラリー・クリントンのために動いた。2014年にウクライナのガス会社の役員に就いたバイデンの息子は「正真正銘のインチキ」だ──。

これらは全て、全くの嘘だ。トランプが大統領に就任してからついたと確認されている1万2000個の嘘(1日に約12個のペースだ)のうち、ほんのいくつかにすぎない。

バイデンに関する明確な事実は、彼が副大統領時代に、ウクライナの政治腐敗を止めようと圧力をかけたということだ。米政界の多くの関係者が、同じような働き掛けをしている。

息子がガス会社の役員に就いたのも、同社の慣行とイメージを正す試みの1つだった。確かに、役員になったのは彼がバイデンの息子だったからだろう。しかし、親子とも、いかなる腐敗にも関わっていない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story